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                      2023年10月15日
                                 VOL.476


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  第476号・目次
【 書 評 】  片山恒雄 『昭和史をどう生きたか』

           (半藤一利著 東京書籍)
【私の一言】  岡本弘昭 『長寿の内容』



       
書 評】
┌─────────────────────────┐
◇          『昭和史をどう生きたか』
◇             (半藤一利著 東京書籍)
└─────────────────────────┘
                      片山 恒雄


 著者は昭和史の第一人者である。本書は、昭和の時代を生き抜いた12名の識者との対談集である。そのうち3名の分を抜粋して書評としたい。(敬称略)

〇対話者(以下同じ)ノンフィクション作家・澤地久枝
 太平洋戦争は真珠湾攻撃に始まり、以後破竹の勢いで翌年4月までに、マレー半島・ボルネオ島・ジャワ島・スマトラ島を占領する。しかしその後の攻撃目標を軍指導部は考えていなかった。そこに折から米空母ホーネット号から発艦したB25爆撃機が突然首都東京をはじめ主要都市に初めての空襲を行った。当時の航続可能距離・可能時間から考えて爆撃後に発艦地点まで帰投することは技術的に不可能なので、同盟国中国に着陸させるという柔軟な発想により実現したものであった。日本軍の首脳は突然の本土空襲に驚いて、米空母の根拠地であるミッドウエー島を占領すべく、空母4隻を含む連合艦隊を派遣した。図らずも日米主力艦隊による海戦が実現する。しかし日本海軍の秘密暗号は戦争前から米軍にパープルの名で解読されており、日本軍が同島を空襲する前に、守備の飛行機隊は同島を飛び立って避難していた。一方日本側は、米国の連合艦隊が現れるか、それとも機動部隊が現れるか見当がつかず、次々に索敵の航空機を出発させたが、あいにくの霧で見つけられなかった。やむを得ず、艦上では敵機動部隊に備えて迎え撃つための爆弾を飛行機に積んだり、艦隊に備えて魚雷に積み替えたりを繰り返した。そしてあと5分で積み替え作業が完了し、飛行機が飛び立つというとき、雲霞のごとく敵の飛行機が艦上に殺到したのである。日本の航空母艦4隻はすべて沈没し、米国の完全勝利に終わった。米国では、Fatal Five Minutes(運命の5分間)と報道された。その瞬間日本は四周の制海権を失った。

〇歴史家・保阪正康
 連隊長吉松喜三大佐は中国軍と対戦中、近くに龍門の洞窟があることが判り、文化遺産保存の観点から中国軍に申し出て、別の場所で戦争することを提案した。その後吉松大佐は「樹の育つところには平和がある」と考えて、大本営に申し出て、たくさんの苗木を送らせ、局地戦が終わるごとに中国大陸に植樹をした。それが中国側の知るところとなり、戦争終了後も植林の依頼を受けた。苗木の数は4百万本にのぼった。
戦後、靖国の靖の字は青つまり緑を立てると書くように、平和の祈りを込めて同神社の空き地に銀杏の木を植えさせて貰い、その実から育てた苗木を遺族に配布して回った。

〇経済学者・野中郁次郎
 著書に、「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」「アメリカ海兵隊―非営利組織の自己革新」などがある。一橋大学名誉教授。彼の説によれば、「知」には二つのタイプがある。論理的で分析的な「形式知」で、デカルトに代表される西欧型の知と、言語で表現することが困難な「暗黙知」である。知を生み出すには、形式知と暗黙知の循環が必要である。日本の軍隊では、論理的・分析的な人物が中心におらず、声が大きく、一見度胸があり、直観型の人間が重視されてきた。具体例では、辻正信と服部卓四郎のコンビは、ノモンハン事件で失敗し、それを取り戻そうと、インパール作戦でさらに大失敗をする。司馬遼太郎の「坂の上の雲」によると、明治時代の知識人には本質を見抜く哲学的な思考が身についていた。美しい言語概念でコンセプトを表現できた。西田哲学でいえば、純粋経験つまり我を超えて対象と一体化するという非常に深い暗黙知。言い換えれば、単なる直観を超えて自覚に至るためには、経験知と形式知との相互作用を働かさなくてはならない。そこに日本軍の失敗の本質が見いだされる。

結び
 明治政府は近代国家のデザインを描くにあたり、欧米先進諸国に倣って、富国強兵を目指し、短い期間に日本を五大強国に成長させた。歴史に「若し」は許されないが、平和・文化・科学立国を目指していたら、現在の日本はどのようになっていたであろうか。これからでも遅くはない。若者たちに希望にあふれた未来を与えられる国家に変貌することを希求する。大国でなくていい。強国でなくてもいい。GDP世界第3位でなくていい。世界中の人々から信頼される豊かな精神国家になることを期待して已まない。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

               『長寿の内容』
───────────────────────────

                      岡本 弘昭

 厚労省に国民生活基礎調査というのがある。その2022年調査に健康票による調査がある、これは、健康票に「絶望的だと感じましたか」「そわそわ、落ち着かなく感じましたか」などこころの状態を示す6つの設問があり、その集計結果の総合点で「精神状態が良好かどうか」を、男女別。年齢区で明らかにするものである。

 65歳以上の高齢者についての調査では、精神状態が良好な人の割合(以下、「のんき度」と呼ぶ)は、65~69歳の男性は78.4%、女性74.4%である。
70-74歳男性78.6%、女性74.4%。70-74歳男性78.6%、女性73.5%。
75-79歳男性74.5%、女性67.35%。80-84男性66.7%、女性61.1%。85歳以上男性60.4%、女性56.0%となっている。高齢化に従い健康上の問題を中心に「のんき度」は低下する。(プレジデントオンライン2023/09/12 )
ただ、85歳以上でも「のんき度」は、それなりの水準にあるといえる。これは我が国の諸政策がそれなりに功を奏してきたともいえよう。

 ところで、現在の日本では、75歳以上のおよそ3人に1人、85歳以上では半数以上が要介護や要支援に認定されている。2025年には、「団塊世代」が全員75歳以上の後期高齢者となるため、全人口1億2254万のうち17.8%(2,180万人)が後期高齢者となる。
従って現状の要介護や要支援状態がそのまま続くとすると、2025年以降は、要介護や要支援に認定される人数が急増することとなる。しかし、我が国の人口構造、財政上の問題、移民政策等からすれば、これに対して十分な対応は難しく「介護難民」が急速に増加すると推測されている。具体的には現状が続けば2025年頃には全国で約43万人が「介護難民」になるという。

 第一生命経済研究所の星野卓也氏の試算では、2050年に介護保険で「要介護」か「要支援」となる人は941万人と2020年度比4割近く増える。この場合、施設や訪問で介護を手掛ける「介護職員」は302万人必要だが、今の就業構造を前提にすると6割の180万人しか確保できず、122万人も足りない。従ってこれで対応できるのは、おそらく要介護のみ。要支援を中心に4割程度の400万人近くはケアを受けられないだろうという。(2023年6月19日日経新聞)

 つまり、これから先の日本社会は、高齢者の介護問題が大きな課題で、具体的には「老々家族介護」時代を迎えることになる。
これに対して政府は、人材開発、生産性向上、外国人介護人材の受け入れ等様々な政策を検討していると伝えられるが、問題の基本は、我が国の人口構造と経済力さらには国民性の問題であり、即効性のある解決は難しいと思われる。つまり、今後高齢者の「のんき度」は急速に悪化していくことは不可避ということである。

 これに対応するには、個人が自己管理に十分に取り組み、あくまでも健康長寿を目指すことが不可欠である。同時に、我が国の社会全体が現実の長寿の内容を直視し、長寿は美徳とする単純な発想から脱し、真の意味でのウエルビーイングを考える風土を作ることが望まれる。



編集後記
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 朝日新聞10月9日の記事によると、韓国では2018年2月に延命医療決定法が施行され法施行5年で適用者は年々増加しているそうです。
 法律の目的は、延命医療への自己決定を尊重することであり患者の最善の利益を保証するもので、実施にはいろいろな手続きが必要とされているようです。しかし一定の要件の下で尊厳死(人生の終末期医療において本人の希望を受け入れた上で、過度な延命治療を行うことなく自然に死を向かう)を認めているということです。

 日本以外の国々では、すでに“安楽死”のあり方について議論している段階だそうですが、日本はまだ“尊厳死”さえ議論が十分になされていません。なお、尊厳死(自殺幇助を除く、治療中止によるもの)についていえば、アメリカ全土、イギリスなどの欧州諸国、台湾やシンガポールなどのアジア各国で認められています。さらに、安楽死(積極的安楽死および医師による自殺幇助)については、オランダやベルギー、ルクセンブルク、オーストラリアの一部の州などで法的に容認されているそうです。
また、イギリスでは、認知症など自分では意思決定を実行できない状態にある方を支援するという視点で“ベスト・インタレスト(最善の利益)”という概念がつくられました。
これは意思決定能力がないと法的に認められた人に代わり、家族や友人らが集まって話し合い、本人らしさを反映した決定を確保するものだそうです。

 このような世界各国の状況からすれば、日本はもはや尊厳死の議論においては、ガラパゴス化しているという評価もあるようです。超高齢化であり少子化社会である我が国では、あらゆるシステムの見直しが求められ、既往の倫理観もその例外ではないと思われます。
尊厳死を含めた死生観について真剣に議論すべき時期が来ているのでは。

今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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 第477号・予告
【 書 評 】  桜田 薫『 日本経済の見えない真実 』

            (門間和夫著 日経BP)
【私の一言】  福山忠彦『「和をもって貴しと為す」で

             世界に規範を示そう 』
               
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                          2023年10月1日

                                VOL.475


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第475号・目次
【 書 評 】西川紀彦『日本銀行 我が国に迫る危機』

      (河村小百合著 講談社現代新書)
【私の一言】幸前成隆『言、時を得るか』


       
【書 評】
┌─────────────────────────┐
◇ 
       『日本銀行 我が国に迫る危機』
◇        
(河村小百合著 講談社現代新書)
└─────────────────────────┘
                     西川 紀彦

 昨4月に日銀は黒田氏から植田氏に総裁が交代した。黒田氏は2期10年と長い間総裁を務めたが、2014年第2次安倍政権から請われて国際金融機関の代表から転職したものだったと思う。当時の低迷していた経済状況から安倍政権が掲げた政策“3本の矢”の第一の矢である「大胆な金融緩和」を実施することとなった。これを発端として2016年には一層の大胆な緩和策である国債の大幅な買い増し、マイナス金利政策、
イールドカーブコントロール(YCC)等、巷間黒田バズーカなる”異次元の金融緩和“をぶち上げた。これには副総裁の岩田規久男氏やイエール大の浜田宏一氏、官僚出身の中野剛一氏らがいわゆるMMT理論を華々しく広言してバックアップしていたものと思う。

 日銀と政府との距離関係は日銀総裁にとって確かに難しいところがあろう。日銀法によれば
① 日銀は「政府の経済政策の基本方針と整合的なものになるよう常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」(第4条)
② 一方で「日銀の業務運営における自主性には十分配慮されなければならない」(第5条)となっており、政府の意向を尊重しつつ独自の自主性をもって政策運営に当たらなければならないわけで、過去の日銀の立ち位置については“大蔵省日銀支店”などと揶揄され批判された時期もあった。

 黒田総裁は強力な政治リーダーの安倍晋三氏の下で影響したのかどうか、また就任早々公言した”2年で物価上昇2%達成までは大胆な金融緩和を行う“が達成されないことから、頑迷にも大胆な金融政策を修正することなく10年の任期を終えることとなった。ただ2020年から3年間コロナ禍に遭遇したことや、退任まじかの今年に入ってウクライナ戦争の影響があり物価上昇の気配が見えてきたのは皮肉であった。

 さてこの本はそんな黒田総裁下の日銀の金融政策を厳しく批判したものである。著者は女性エコノミストの日銀出身で現在は日本総研に在籍中、マスコミにも登場したことがある。文章は穏やかであるが内容のトーンは非常に厳しいものである。一般に金融政策の理解は大変難しいが、門外漢にも優しく書かれているように思う。

 黒田総裁の政策に対する批判には、2021年11月月刊誌文藝春秋に元財務次官の矢野氏が日銀の債務(巨大な国債保有残)をタイタニック号の氷山に喩えて危険性を警告した、また朝日新聞の原真人編集委員が多事総論のコラムで出口戦略を何も語らない黒田氏を痛烈に批判しており、黒田氏も内心苦悩の連続であったと思う。この本で特に強調している点は、支配層が巨額の債務の現実の危険性をまともに顧みずに、無関心、無理解、無責任でいることである。ただ、この巨大な債務超過が我々の生活にどういう影響をもたらすかの具体的な点を語っていないのが評者には不満なところであ
る。社会保障費、税金等普通の生活に影響が出てくることは薄々理解できても、その痛みはかなり先のことだとして多くの人が切迫感を自覚するには至っていないのが正直なところだろう。

 著者は早く正常な金利政策に戻り、年々の3分の一強を国債に頼るような予算から脱却すべきと言っているが、言うは易く実行はなかなか大変な覚悟を要するもので、仮に1%の金利引き上げでも数兆円の財政赤字に見舞われる恐れがある。
すでに過重な困難を背負った日本経済の先行きが心配になるのをこの本を手にして強く感じた次第である。

なお、こうした心配ことは長期的に発生するものなので
① 民間貯蓄が2000兆円もあるのだから国債発行はまだまだ心配ない(4月現在1040兆円)
② 国債の償還ルールを、例えば現在の60年から80年とかあるいは無期限にしてしまえばよい
③ 外貨準備高が1兆3000億ドル(130~150兆円)あるから、国際金融のトリレンマの心配はない(国際市場の制約なく経済政策を打てる)といった見解がみられることをも紹介している。

いずれにしても新総裁の植田氏は大変な役を引き受けたものとこの本を読んで痛感した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

            『言、時を得るか』
───────────────────────────                                                      

                     幸前 成隆


 発言は、時宜を得て行わなければならない。言うべきときに言い、言うべからざるときに言ってはいけない。

 孔子の三愆の戒めが、論語・季氏に出ている。「君子に侍するに三愆あり。言未だ及ばずして言う、これを躁と謂う。言これに及びて言わざる、これを隠と謂う。未だ顔色を見ずして言う、これを瞽と謂う」。

 荀子も、「未だ与に言うべからざるして言う、これを傲という。与に言うべくして言わざる、これを隠という。顔色を見ずして言う、これを瞽という。故に、君子は、傲ならず、隠ならず、瞽ならず。謹んで、その身に順う(荀子・勧学篇)」といい、孟子は、「未だ言うべからずして言うは、これ言うをもって餂るなり。言うべくして言わざるは、これ言わざるをもって餂るなり(孟子・尽心章句下)」という。

 人の発言中に遮って話すのは、失礼である。未だ定まっていない事を不用意に話すのは、軽率である。

 意見を求められて言わないのは、陰険である。意見を言うべきときに言わないのは、責めを果たしていない。謝罪すべきときに逃げ回るのは、卑怯である。

 時を得て、言えるか。論語・憲問に、公叔文子の話がある。孔子の問に対して、公明賈が、「夫子、時にして然る後に言う。人、その言うことを厭わず」と答えたとある。

 「時において言を言い、時において語を語る(詩経)」ことが重要である。


編集後記
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
 内外の諸情勢変化が激しい昨今、我が国は、国家運営を含めてあらゆる組織・場面でリーダーの出現が期待されます。日本電産の創業者永守会長のリーダー論が大変参考になります。(東洋経済21/12/07 インタビュー記事)

 『リーダーは狼にならないといけない。リーダーは人を引っ張り、たくさん集め、自分の考えているとおりに動かせることが基本だ。部下は全員が羊でも、トップが狼であれば勝てる。
それも自らが率先して集団の先頭に立っていかなければいけない。歴史においても第2次世界大戦中にアメリカの戦車部隊を率いたジョージ・パットン将軍はいつも先頭に立った。日露戦争中の激戦、二〇三高地の戦いでは乃木希典将軍は前線を知らずにずっと後方で指揮をしていたが、児玉源太郎将軍は戦場の前線まで行って指揮して勝ったという。
大企業では狼が出てこない。狼の社員がいると敵になってしまうから上が辞めさせてしまう。だから大きな組織の中であがる人は狼が羊化したり、逆に狼はつぶされてしまったりする。』
 派閥均衡人事の内閣には、大きな飛躍の期待は持てないということでしょうか。
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 第476号・予告
【 書 評 】  片山恒雄『昭和史をどう生きたか』

           (半藤一利著 東京書籍)
【私の一言】  岡本弘昭『長寿の内容』

               
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                                                                                   VOL.475


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第475号・目次
【 書 評 】 西川紀彦 『日本銀行 我が国に迫る危機』

                                 (河村小百合著 講談社現代新書)
【私の一言】幸前成隆 『言、時を得るか』


       
【書 評】
┌─────────────────────────┐
◇        『日本銀行 我が国に迫る危機』
◇          (河村小百合著 講談社現代新書)
└─────────────────────────┘                                                                                             西川 紀彦

 昨4月に日銀は黒田氏から植田氏に総裁が交代した。黒田氏は2期10年と長い間総裁を務めたが、2014年第2次安倍政権から請われて国際金融機関の代表から転職したものだったと思う。当時の低迷していた経済状況から安倍政権が掲げた政策“3本の矢”の第一の矢である「大胆な金融緩和」を実施することとなった。これを発端として2016年には一層の大胆な緩和策である国債の大幅な買い増し、マイナス金利政策、
イールドカーブコントロール(YCC)等、巷間黒田バズーカなる”異次元の金融緩和“をぶち上げた。これには副総裁の岩田規久男氏やイエール大の浜田宏一氏、官僚出身の中野剛一氏らがいわゆるMMT理論を華々しく広言してバックアップしていたものと思う。

 日銀と政府との距離関係は日銀総裁にとって確かに難しいところがあろう。日銀法によれば
① 日銀は「政府の経済政策の基本方針と整合的なものになるよう常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」(第4条)
② 一方で「日銀の業務運営における自主性には十分配慮されなければならない」(第5条)となっており、政府の意向を尊重しつつ独自の自主性をもって政策運営に当たらなければならないわけで、過去の日銀の立ち位置については“大蔵省日銀支店”などと揶揄され批判された時期もあった。

 黒田総裁は強力な政治リーダーの安倍晋三氏の下で影響したのかどうか、また就任早々公言した”2年で物価上昇2%達成までは大胆な金融緩和を行う“が達成されないことから、頑迷にも大胆な金融政策を修正することなく10年の任期を終えることとなった。ただ2020年から3年間コロナ禍に遭遇したことや、退任まじかの今年に入ってウクライナ戦争の影響があり物価上昇の気配が見えてきたのは皮肉であった。

 さてこの本はそんな黒田総裁下の日銀の金融政策を厳しく批判したものである。著者は女性エコノミストの日銀出身で現在は日本総研に在籍中、マスコミにも登場したことがある。文章は穏やかであるが内容のトーンは非常に厳しいものである。一般に金融政策の理解は大変難しいが、門外漢にも優しく書かれているように思う。

 黒田総裁の政策に対する批判には、2021年11月月刊誌文藝春秋に元財務次官の矢野氏が日銀の債務(巨大な国債保有残)をタイタニック号の氷山に喩えて危険性を警告した、また朝日新聞の原真人編集委員が多事総論のコラムで出口戦略を何も語らない黒田氏を痛烈に批判しており、黒田氏も内心苦悩の連続であったと思う。この本で特に強調している点は、支配層が巨額の債務の現実の危険性をまともに顧みずに、無関心、無理解、無責任でいることである。ただ、この巨大な債務超過が我々の生活にどういう影響をもたらすかの具体的な点を語っていないのが評者には不満なところであ
る。社会保障費、税金等普通の生活に影響が出てくることは薄々理解できても、その痛みはかなり先のことだとして多くの人が切迫感を自覚するには至っていないのが正直なところだろう。

 著者は早く正常な金利政策に戻り、年々の3分の一強を国債に頼るような予算から脱却すべきと言っているが、言うは易く実行はなかなか大変な覚悟を要するもので、仮に1%の金利引き上げでも数兆円の財政赤字に見舞われる恐れがある。
すでに過重な困難を背負った日本経済の先行きが心配になるのをこの本を手にして強く感じた次第である。

なお、こうした心配ことは長期的に発生するものなので
① 民間貯蓄が2000兆円もあるのだから国債発行はまだまだ心配ない(4月現在1040兆円)
② 国債の償還ルールを、例えば現在の60年から80年とかあるいは無期限にしてしまえばよい
③ 外貨準備高が1兆3000億ドル(130~150兆円)あるから、国際金融のトリレンマの心配はない(国際市場の制約なく経済政策を打てる)
といった見解がみられることをも紹介している。

いずれにしても新総裁の植田氏は大変な役を引き受けたものとこの本を読んで痛感した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

                 

                            『言、時を得るか』
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                      幸前 成隆

 発言は、時宜を得て行わなければならない。言うべきときに言い、言うべからざるときに言ってはいけない。

 孔子の三愆の戒めが、論語・季氏に出ている。「君子に侍するに三愆あり。言未だ及ばずして言う、これを躁と謂う。言これに及びて言わざる、これを隠と謂う。未だ顔色を見ずして言う、これを瞽と謂う」。

 荀子も、「未だ与に言うべからざるして言う、これを傲という。与に言うべくして言わざる、これを隠という。顔色を見ずして言う、これを瞽という。故に、君子は、傲ならず、隠ならず、瞽ならず。謹んで、その身に順う(荀子・勧学篇)」といい、孟子は、「未だ言うべからずして言うは、これ言うをもって餂るなり。言うべくして言わざるは、これ言わざるをもって餂るなり(孟子・尽心章句下)」という。

 人の発言中に遮って話すのは、失礼である。未だ定まっていない事を不用意に話すのは、軽率である。

 意見を求められて言わないのは、陰険である。意見を言うべきときに言わないのは、責めを果たしていない。謝罪すべきときに逃げ回るのは、卑怯である。

 時を得て、言えるか。論語・憲問に、公叔文子の話がある。孔子の問に対して、公明賈が、「夫子、時にして然る後に言う。人、その言うことを厭わず」と答えたとある。

 「時において言を言い、時において語を語る(詩経)」ことが重要である。


編集後記
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
 内外の諸情勢変化が激しい昨今、我が国は、国家運営を含めてあらゆる組織・場面でリーダーの出現が期待されます。日本電産の創業者永守会長のリーダー論が大変参考になります。(東洋経済21/12/07 インタビュー記事)

 『リーダーは狼にならないといけない。リーダーは人を引っ張り、たくさん集め、自分の考えているとおりに動かせることが基本だ。部下は全員が羊でも、トップが狼であれば勝てる。
それも自らが率先して集団の先頭に立っていかなければいけない。歴史においても第2次世界大戦中にアメリカの戦車部隊を率いたジョージ・パットン将軍はいつも先頭に立った。日露戦争中の激戦、二〇三高地の戦いでは乃木希典将軍は前線を知らずにずっと後方で指揮をしていたが、児玉源太郎将軍は戦場の前線まで行って指揮して勝ったという。
大企業では狼が出てこない。狼の社員がいると敵になってしまうから上が辞めさせてしまう。だから大きな組織の中であがる人は狼が羊化したり、逆に狼はつぶされてしまったりする。』

 派閥均衡人事の内閣には、大きな飛躍の期待は持てないということでしょうか。
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                         2023年9月15日

                             VOL.474

 

               評 論 の 宝 箱

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 第474号・目次

  【 書 評 】  佐藤 広宣 『百歳以前』 

              徳岡 孝夫・土井 荘平著(文春新書)

  【私の一言】  福山 忠彦 『新渡戸稲造「武士道」執筆の動機に想う』

 

        

【書 評】

┌─────────────────────────┐

◇              『百歳以前』

◇        (徳岡孝夫・土井荘平共著 文春新書)

└─────────────────────────┘

                      佐藤 広宣

 

  文春新書「百歳以前」は、旧制北野中学の二人の同級生の共著で、往復書簡集の趣の本。
 一人は名文家で知られるジャーナリストの徳岡孝夫氏で、京都大学文学部英文科卒業後、毎日新聞社に入社。社会部記者、バンコク特派員、編集次長、編集委員などを歴任。
 フリージャーナリストとして独立後は主に国際問題などの分野で活動。
『第三の波』(A・トフラー著)、『日本文学史』(D・キーン著)などの翻訳も手がけている。


 もう一人は小説家の土井荘平氏で、商社マンOB.
1930年生まれで91歳の二人は、要介護状態で、妻を亡くしたおひとりさまです。


  二人は、時に笑い、時に涙を流しながら、日常生活や回想、人生の喜びや悲しみ、老いについて語り合います。
 体は要介護状態ですが、二人とも頭は冴えていて、なお、生きることの意味を探求しています。
 二人の語りには、人生の真実が垣間見えるような力があります。
 昭和一桁生まれの二人は、僕の上司にあたる年代で、自分の行く末の道しるべの本として読み、勇気づけられました。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

            

    『新渡戸稲造「武士道」執筆の動機に想う』

───────────────────────────

                      福山 忠彦

 

 カナダ・バンクーバーにある名門ブリティシュコロンビア大学(UBC)構内に「新渡戸稲造記念日本庭園」があります。面積は1ヘクタール、池泉回遊式庭園と茶室「一望庵」があり、私は7年前に尋ねました。近くのビクトリア市のロイヤル・ジュビリー病院には「新渡戸稲造終焉の地」と刻された石碑があり、また米国西海岸ワシントン州を見渡す絶景の地には新渡戸の名言「われ太平洋の橋とならん」を刻んだ記念碑もあります。

 

 彼は1862年(文久2年)に岩手県盛岡藩士の子として生まれ、1933年(昭和8年)にビクトリア市で客死した教育者・思想家・農学者です。クラーク博士が帰任した翌年に札幌農学校(現:北海道大学)に入り同級生の内村鑑三とともに洗礼を受け、熱心なキリスト教信者になり、平和や女子教育にも貢献しました。彼を有名にしたのは「武士道」(BUSHIDO:The Soul of Japan)の執筆です。1900年(明治33年)に出版されると米国大統領セオドア・ルーズベルトはいたく感激し30冊購入し友知人に配布し、5人の子供にも熟読を薦めました。その後は1920年(大正9年)に設立された国際連盟事務局次長を6年間勤めた国際人でした。選ばれたのは「武士道」執筆者としての知名度と当時の大統領ウィルソンの推薦でした。その国際連盟を日本は1933年(昭和8年)3月に脱退します。生じた反日感情を緩和するため米国各地で講演し、同年10月にカナダのバンフで開かれた太平洋問題調査会議に日本代表団を率いて出席し、その帰途ビクトリア市で病没します。71歳でした。今回は「武士道」の中身よりも執筆の動機に焦点を当てて書きます。

 

「武士道」は日本人の道徳や精神を世界に伝え平和や女子教育にも言及

チャットGPTに『武士道』を短くまとめて貰いました。「日本の武士階級が持った特有の倫理観・思想であり、西洋の哲学と対比しながら、日本人の心のよりどころを世界に向けて解説した著作です『武士道』は、道徳の体系としての武士道、武士道の淵源、義または正義、勇気、敢為堅忍の精神、仁、側隠の心、礼儀、正直と誠実の心、名誉、忠義、侍と教育と訓練、克己、自害と敵討ち、刀・侍の魂、女性の訓練と地位、武士道の感化、武士道はなお生きているか?そして武士道の将来について書かれています。」という返事でした。

 

 執筆の切っ掛けはベルギーの法学者ド・ラブレーのとの散歩中でした

 38歳の時、体を悪くしてアメリカで療養をしている時にベルギーの法学者ド・ラブレーの家に招かれ散歩の途中に二人はこんな会話をしました。「日本の学校では宗教教育はないのですか。」「はい、ありません。」「では日本人はどうやって道徳教育をするのですか。」この質問こそが名著「武士道」を生む切っ掛けになりました。日清戦争に勝ち日本への関心が高まっていた時期でした。幼少のころから英語に親しみ留学経験もあるため、最初から英語で「子孫に道徳教育を授ける手段」「日常生活における規範」「高い身分に伴う義務」が仏教、神道、儒教を背景に書かれました。日本語訳は執筆から8年後のことでした。

 

 チャットGPT時代の教育は大改革が必要 知識習得以外に豊かな発想と気骨教育

 好むと好まざるとに関わらず生成AIのチャットGPTは社会に多大なる変革をもたらします。日本でも一千万以上の人が職種変更をするでしょう。このような雇用問題よりも私は最も大きな影響は教育だと思っています。先人たちが築いてきた知識の習得ではチャットGPTにはかないません。上手にチャットGPTの利点を使うことです。過度な知識習得から解放され、学校教育や入学試験も大きく変わっていき、知識以外の才覚が問われることでしょう。上述の新渡戸稲造の「武士道」に戻ると次のことが言えます。

・宗教教育や道徳教育の事を尋ねられ、「ありません」と返事した自分自身に大きな衝撃を受け、この質問は真摯に受け止めようと彼の内なる自分が叫んだのでしょう。

・彼自身はクリスチャンですが、この質問に答えられなければ自身のこの世での存在意義がないと感じるものがあったのでしょう。

このような思考回路、発想(ひらめき)がこれから必要になります。チャットGPTが持つ(人類が作り上げた)膨大な知識と相俟って人々は次の新しい未来を拓くことが期待されます。この時大切なことは人間とは、自分とは、について考えたことの有無です。教育ですべて解決できるものではありませんが、学校は知識の習得以外に「人間とは、自分とは」を考える鍛錬の場、豊かな発想を持つ人格陶冶をする場になって欲しいと願っています。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは人生の究極的な目的は「幸福であること。それは徳のある人生を生き、価値ある行為をすることによって得られる。」と論じました。チャットGPTにより、知識の習得や記憶に偏重していた教育を「人格陶冶」の場にして平和や幸福を求める足掛かりにしたいものです。

 

 

編集後記

∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

プレジデントニュース23-9-3号に和田秀樹さんの薬の副作用に関する話が出ていました。

大変参考になると思いますので一部をご紹介します。

 

〖オーストラリアでの調査報告では、全入院患者の3%前後が、薬の服用に起因した入院でした。高年の患者ではその比率がさらに高くなり、15~20%とされています。(中略)薬を処方しすぎる薬大国・日本では、その比率ははるかに高いと見て間違いないでしょう。実際、それによって患者さんの健康を害することが起こっています。

薬の数が増えれば、必然的に副作用も多くなります。高年者の場合、薬の数が6種類以上になると、副作用が増えるとされています。最近、頭がボーッとするし、寝込むことが多いと思っていたら、多剤服用による副作用だったケースも珍しくありません。認知症と間違われたり、足元がふらついて転倒し、寝たきりになったりすることも起こっています。(中略)病気という毒を、薬という名の毒を使って抑え込むため、病気以外の場所にも作用します。たとえ1つの病気を抑えられても、作用は他所にも及び、意図する反応とは異なる症状を生み出します。これが副作用です。ですから、自分が飲む薬については、副作用を確認しておきましょう。薬が処方される際、効能の話はあっても、副作用の説明はされないことが大半です。

その場合には、患者さん自身が、「この薬にはどんな副作用がありますか?」と尋ねましょう。患者さんが尋ねれば、信頼に足る医師なら、きちんと答えてくれるはずです。薬を飲み始めて体調が悪くなったと感じたときには、頑張って飲み続ける必要はありません。すぐに体調の悪化を医師に相談して、服用をいったんやめるか、別の薬に替えることが、ご自身の健康のために必要です。(後略)】

 

今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

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 第475号・予告

 【 書 評 】    西川紀彦 『日本銀行 我が国に迫る危機』

             (河村小百合薯 講談社現代新書) 

  【私の一言】  幸前成隆 『言、時を得るか』

               

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                             VOL.474

            
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 第474号・目次
【 書 評 】  佐藤 広宣 『百歳以前』 

                                     徳岡 孝夫・土井 荘平共著(文春新書)
【私の一言】 福山 忠彦 『新渡戸稲造「武士道」執筆の動機に想う』


        
【書 評】
┌─────────────────────────┐
◇            『百歳以前』
◇    (徳岡孝夫・土井荘平共著 文春新書)
└─────────────────────────┘

                     佐藤 広宣

 文春新書「百歳以前」は、旧制北野中学の二人の同級生の共著で、往復書簡集の趣の本。
 一人は名文家で知られるジャーナリストの徳岡孝夫氏で、京都大学文学部英文科卒業後、毎日新聞社に入社。社会部記者、バンコク特派員、編集次長、編集委員などを歴任。フリージャーナリストとして独立後は主に国際問題などの分野で活動。
『第三の波』(A・トフラー著)、『日本文学史』(D・キーン著)などの翻訳も手がけている。

 もう一人は小説家の土井荘平氏で、商社マンOB。

1930年生まれで91歳の二人は、要介護状態で、妻を亡くしたおひとりさまです。

二人は、時に笑い、時に涙を流しながら、日常生活や回想、人生の喜びや悲しみ、老いについて語り合います。
 体は要介護状態ですが、二人とも頭は冴えていて、なお、生きることの意味を探求しています。

  二人の語りには、人生の真実が垣間見えるような力があります。
 昭和一桁生まれの二人は、僕の上司にあたる年代で、自分の行く末の道しるべの本として読み、勇気づけられました。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

    『新渡戸稲造「武士道」執筆の動機に想う』
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                                       福山 忠彦


 カナダ・バンクーバーにある名門ブリティシュコロンビア大学(UBC)構内に「新渡戸稲造記念日本庭園」があります。面積は1ヘクタール、池泉回遊式庭園と茶室「一望庵」があり、私は7年前に訪ねました。近くのビクトリア市のロイヤル・ジュビリー病院には「新渡戸稲造終焉の地」と刻された石碑があり、また米国西海岸ワシントン州を見渡す絶景の地には新渡戸の名言「われ太平洋の橋とならん」を刻んだ記念碑もあります。

 彼は1862年(文久2年)に岩手県盛岡藩士の子として生まれ、1933年(昭和8年)にビクトリア市で客死した教育者・思想家・農学者です。クラーク博士が帰任した翌年に札幌農学校(現:北海道大学)に入り同級生の内村鑑三とともに洗礼を受け、熱心なキリスト教信者になり、平和や女子教育にも貢献しました。彼を有名にしたのは「武士道」(BUSHIDO:The Soul of Japan)の執筆です。1900年(明治33年)に出版されると米国大統領セオドア・ルーズベルトはいたく感激し30冊購入し友知人に配布し、5人の子供にも熟読を薦めました。その後は1920年(大正9年)に設立された国際連盟事務局次長を6年間勤めた国際人でした。選ばれたのは「武士道」執筆者としての知名度と当時の大統領ウィルソンの推薦でした。その国際連盟を日本は1933年(昭和8年)3月に脱退します。
生じた反日感情を緩和するため米国各地で講演し、同年10月にカナダのバンフで開かれた太平洋問題調査会議に日本代表団を率いて出席し、その帰途ビクトリア市で病没します。
71歳でした。今回は「武士道」の中身よりも執筆の動機に焦点を当てて書きます。
 
「武士道」は日本人の道徳や精神を世界に伝え平和や女子教育にも言及.チャットGPTに『武士道』を短くまとめて貰いました。「日本の武士階級が持った特有の倫理観・思想であり、西洋の哲学と対比しながら、日本人の心のよりどころを世界に向けて解説した著作です。『武士道』は、道徳の体系としての武士道、武士道の淵源、義または正義、勇気、敢為堅忍の精神、仁、側隠の心、礼儀、正直と誠実の心、名誉、
忠義、侍と教育と訓練、克己、自害と敵討ち、刀・侍の魂、女性の訓練と地位、武士道の感化、武士道はなお生きているか?そして武士道の将来について書かれています。」
という返事でした。

 執筆の切っ掛けはベルギーの法学者ド・ラブレーのとの散歩中でした
 38歳の時、体を悪くしてアメリカで療養をしている時に、ベルギーの法学者ド・ラブレーの家に招かれ散歩の途中に二人はこんな会話をしました。「日本の学校では宗教教育はないのですか。」「はい、ありません。」「では日本人はどうやって道徳教育をするのですか。」この質問こそが名著「武士道」を生む切っ掛けになりました。日清戦争に勝ち日本への関心が高まっていた時期でした。幼少のころから英語に親しみ留学経験もあるため、最初から英語で「子孫に道徳教育を授ける手段」「日常生活における規範」「高い身分に伴う義務」が仏教、神道、儒教を背景に書かれました。日本語訳は執筆から8年後のことでした。
 

 チャットGPT時代の教育は大改革が必要 知識習得以外に豊かな発想と気骨教育
 好むと好まざるとに関わらず生成AIのチャットGPTは社会に多大なる変革をもたらします。日本でも一千万以上の人が職種変更をするでしょう。このような雇用問題よりも私は最も大きな影響は教育だと思っています。先人たちが築いてきた知識の習得ではチャットGPTにはかないません。上手にチャットGPTの利点を使うことです。過度な知識習得から解放され、学校教育や入学試験も大きく変わっていき、知識以外の才覚が問われることでしょう。上述の新渡戸稲造の「武士道」に戻ると次のことが言えます。

・宗教教育や道徳教育の事を尋ねられ、「ありません」と返事した自分自身に大きな衝撃を受け、この質問は真摯に受け止めようと彼の内なる自分が叫んだのでしょう。
・彼自身はクリスチャンですが、この質問に答えられなければ自身のこの世での存在意義がないと感じるものがあったのでしょう。
このような思考回路、発想(ひらめき)がこれから必要になります。チャットGPTが持つ(人類が作り上げた)膨大な知識と相俟って人々は次の新しい未来を拓くことが期待されます。この時大切なことは人間とは、自分とは、について考えたことの有無です。教育ですべて解決できるものではありませんが、学校は知識の習得以外に「人間とは、自分とは」を考える鍛錬の場、豊かな発想を持つ人格陶冶をする場になって欲しいと願っています。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは人生の究極的な目的は「幸福であること。それは徳のある人生を生き、価値ある行為をすることによって得られる。」と論じました。チャットGPTにより、知識の習得や記憶に偏重していた教育を「人格陶冶」の場にして平和や幸福を求める足掛かりにしたいものです。


編集後記
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プレジデントニュース23-9-3号に和田秀樹さんの薬の副作用に関する話が出ていました。
大変参考になると思いますので一部をご紹介します。

『オーストラリアでの調査報告では、全入院患者の3%前後が、薬の服用に起因した入
院でした。高年の患者ではその比率がさらに高くなり、15~20%とされています。(中略)薬を処方しすぎる薬大国・日本では、その比率ははるかに高いと見て間違いないでしょ
う。実際、それによって患者さんの健康を害することが起こっています。
 薬の数が増えれば、必然的に副作用も多くなります。高年者の場合、薬の数が6種類以上になると、副作用が増えるとされています。最近、頭がボーッとするし、寝込むことが多いと思っていたら、多剤服用による副作用だったケースも珍しくありません。認知症と間違われたり、足元がふらついて転倒し、寝たきりになったりすることも起こっています。
(中略)病気という毒を、薬という名の毒を使って抑え込むため、病気以外の場所にも作用します。たとえ1つの病気を抑えられても、作用は他所にも及び、意図する反応とは異
なる症状を生み出します。これが副作用です。ですから、自分が飲む薬については、副作用を確認しておきましょう。薬が処方される際、効能の話はあっても、副作用の説明はされないことが大半です。
 その場合には、患者さん自身が、「この薬にはどんな副作用がありますか?」と尋ねましょう。患者さんが尋ねれば、信頼に足る医師なら、きちんと答えてくれるはずです。薬を飲み始めて体調が悪くなったと感じたときには、頑張って飲み続ける必要はありません。
すぐに体調の悪化を医師に相談して、服用をいったんやめるか、別の薬に替えることが、ご自身の健康のために必要です。(後略)』

今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

 第475号・予告
【 書 評 】 西川紀彦 『日本銀行 我が国に迫る危機』

            (河村小百合著 講談社現代新書) 
【私の一言】 幸前成隆 『言、時を得るか』

               
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
   ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。
    ■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
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                                       2022年4月15日
                                                                                    VOL.440

           
 評 論 の 宝 箱
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          見方が変われば生き方変わる。
          読者の、筆者の活性化を目指す、
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  第440号・目次
【書  評】 岡本弘昭  『明治維新という過ち---
              日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』
               (原田伊織著 講談社文庫)
【私の一言】 福山忠彦 『「百日紅」と「翡翠」に癒されての日々』

【書 評】
┌─────────────────────────┐
◇ 
        『明治維新という過ち

               ---日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリス』
◇      (原田伊織著 講談社文庫)
└─────────────────────────┘
                                                              岡本 弘昭


 最近のウクライナ・ロシアの交戦は、現地での戦闘と同時に情報戦争とも言われている。ところで一つの事実は立場が違うと全く違う解釈になるが、いずれも事実として伝えられる。上記交戦に関しても発表者によって随分違う内容で報じ
られている。
 

 歴史はその「事実」を出発点とする集積である 。しかし、事実には立場による解釈の差異があり、従って歴史はもともと多様性がある。現在の諸事実と同様に、歴史についても自分の頭で出来るだけ事実の実相を見極め対応することが必要となる。

 明治維新は、日本近代史上極めて重要な時期であるが、その歴史についてはこれまでは、薩長を中心とする官軍が作った勝者の歴史を唯一の『真実』として流布されてきた。しかし、事実の実相を詳細に整理した場合、いろいろな面で流布
されてきた歴史とは違う事実が多数浮かび上がってくる。
 しかも流布された歴史は社会風土にも影響を与える。本書はそのことを指摘し、事実といえど見方よって変わることを十分に認識し、自身で事実の実相を知るように努め、判断する重要性を教えてくれる。

 本書は、明治維新とは何だったかを考え、流布された歴史の背景とその影響を記載する。副題は、「日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」とある。
これは、これまでの歴史観はその正当性を担保するため、水戸学の影響を受けた吉田松陰と天皇の政治利用によるとテロリズムを美化し流布したものである。しかし事実の実相はそれと異なるものであり、歴史観の修正を提示しているもので、内容項目は次のようになっている。

 明治維新とは、「江戸幕府とその社会体制の転覆を謀り、天皇親政を企図し、これを実現させた長州・薩摩藩を中心とする一連の軍事活動」である。この結果、日本は近代に突入するが、新政府は「欧米列強による日本の植民地化を防ぎ近代
国家を作ったとした。しかも、自己の正当化のため江戸期の歴史を完全に否定しそれによる歴史観を作った。また、一連の軍事活動の背景には、朝廷・天皇の政治利用とテロリズムがあり、それを受け継いだ精神は、その後の政府要人の暗殺、
大東亜戦争への突入、天皇の統帥権等を惹起し、その後の日本社会に大きな影響を与えてきた。
 

 しかし、江戸期は世界史的にも高度の文明社会であり、単なる封建社会ではない。歴史に「もし」が許されるならば、我が国が「明治維新という過ち」を犯さず、長州・薩摩のテロによる倒幕が成功し得なかったとすれば、徳川政権が江戸期の政権運営経験とその社会システム、外交ノウハウを生かして変質し、国民皆兵の軍備中立国スイスあるいは自立意向の強い北欧3国に似た立憲民主国になっていたのでないか、と著者は推測し、歴史の学習の重要性を教えてくれる。
 

目次項目は次の通りである。
 ・坂本龍馬「薩長同盟」仲介の嘘。
 ・吉田松陰が導いた大東亜戦争への道。
 ・「維新」至上主義、司馬史観の功罪。
 ・テロを正当化した「水戸学」の狂気。
 ・二本松・会津での虐殺、非人道的行為。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
         
   『「百日紅」と「翡翠」に癒されての日々』

───────────────────────────
                      福山 忠彦


 コロナ禍は自然との触れ合いをもたらすことになりました。庭の植物や散歩道での変化に敏感になったようです。庭の植木で、目を引いたのが「百日紅」、読みは「サルスベリ」です。例年夏になると赤い小さな花の塊をいくつか咲かせますが、昨年はその赤い花が爆発的に増えて庭で一番の存在感を持つ花です。
朝、雨戸をあけるときには、「おはよう」と挨拶をしています。もう一つは「翡翠」、読みは「カワセミ」です。毎朝近くの川沿いを散歩していますが、その時に出会うとても美しい瑠璃色の羽を持つ雀くらいの大きさの鳥です。「空飛ぶ宝
石」「水辺の宝石」と呼ばれる有名な小鳥です。大きく長い望遠レンズを付けたカメラを持つカメラ愛好者が早朝から撮影をしています。私はこの二つが漢字と読みが似つかわしくないと思い少し調べてみました。
 百日紅と書くサルスベリ、翡翠と書くカワセミの話です。

「サルスベリ(百日紅)は、長い開花期間を持つが、その幹や枝で猿は滑らない」

 初夏から秋までの長い間、鮮やかな紅色、ピンク、白などの花を咲かせます。木は必要以上に大きくならないため、庭や公園、お寺や神社の境内などでもよく見かける私たちに馴染みのある木です。出しゃばらない木で、今まではひっそり
と数個の花を咲かせていました。ところが今年はどうしたことか数十の鮮やかな真っ赤な花を咲かせたのです。殺風景な庭が美しい装いをした庭になりました。
毎朝、雨戸をあけるのが楽しみです。文字通り100日間咲き続けるに違いありません。名前の由来を調べると次のような物語に出会いました。

 昔、朝鮮半島のある村で、竜神への生贄として若い娘を捧げる風習がありました。ある時、その国の王子が通りがかり、話を聞いた王子は竜神退治を決意し、竜神と戦いを挑み、見事に娘を救い出しました。そして、二人の間には恋が芽生え、王子は「百日後には必ず迎えに来る」と約束しました。約束の日、村に戻った王子は娘が亡くなったことを知らされます。嘆き悲しむ王子。やがて、娘のお墓から一本の木が生えて花を咲かせました。その花は、愛しき人を今か今かと待つように、100日間咲き続けたそうです。爾来、この花を百日紅と呼ぶようになったそうです。
 

 中国では、唐の長安の紫微(宮廷)に多く植えられたため、紫微(シビ)と呼ばれます。江蘇省徐州市、四川省自貢市、台湾基隆市などでは市の花になっています。サルスベリと呼ぶのは日本だけのようです。樹皮はザラザラしていますが一度剥がれ落ちると白い肌が見え、とてもつるつるしています。見た目には、この木肌はサルが木に登ろうとしても滑って落ちてしまいそうなことからサルスベリと呼ばれるようになったそうです。また、光が足りないと開花しないそうです。

 今年、沢山開花したのは6月末に庭の剪定を頼み、サルスベリの木を覆っていた樹木の高さを半分にし、周りの木々の枝をすべて刈り払ったため、日当たりが著くよくなりました。この剪定のお陰で花付きがよくなったのです。来年も百日紅の鮮やかな赤い花が見られるように枝葉への日当たりに気をつたいと思っています。しかし、先ずは本当に100日の間、花が咲き続けるかどうか毎朝、観察と激励するつもりです。

「宝石の翡翠はカワセミの羽の色に由来、環境改善のバロメータになる小鳥」

 水辺に生息する美しい鳥です。最近では自然環境保護の象徴と言われています。河川の護岸がコンクリート化されるに従い、カワセミは著しく減少しましたが最近は自然と調和する護岸工事になり、かなり回復してきました。そのため河川の回復度を測るバロメータとしてカワセミが選ばれました。この鳥の特徴は何といっても羽毛の色です。背中は瑠璃色で、腹はオレンジ色です。「水辺の宝石」という呼び名がぴったりです。カワセミは漢字では翡翠と書きます。宝石の翡翠(ヒスイ)はこの鳥の名前に由来します。鳥の名前が先にあり、宝石の名前に転用されたのです。よく見れば翡翠の「翡」にも「翠」にも「羽」という文字が含まれます。日本語のカワセミの由来は判っていません。鳴き声がセミに似ているという説がありますが、カワセミの鳴き声はセミに似ていません。きらきらと宝石のように輝く羽毛の瑠璃色は色素によるものでなく、羽毛にある微細構造により光の加減で見える色です。これは構造色と言われシャボン玉が様々な色に見えるのと同じ原理だそうです。
 

 フェルメールの有名な絵「真珠の耳飾りの少女」に描かれた少女の青いターバンの鮮やかな色にそっくりです。これは瑠璃(ラピズラズリ)と呼ばれる顔料で、当時は金と同じくらい高価なものでした。

 一度見ると忘れられない羽毛の美しい鳥です。幸いなことに私の散策する川べりに住んでいます。常に一羽です。縄張り意識が強く半径500メートルが一羽の縄張りだそうです。前述のカメラ愛好者たちは年に一度「川べりフォトミュージ
アム」と称して各人の自信作を川べりのフェンスに括りつけて展示します。鴫、カルガモ、放流されている錦鯉などの数十枚の写真の中でカワセミの写真は際立っています。大きな川魚を口にくわえた写真もあります。そう言えばカワセミは体の割に長いくちばしを持つ魚取りに優れた鳥です。一枚の写真の為、早朝からの撮影に励む写真愛好家に敬意を表しながら見ています。
 単調な散歩ですが、新鮮な空気と翡翠は私の散歩に彩を添えてくれています。

 サルスベリ=百日紅、カワセミ=翡翠という読みと漢字が簡単に想像できない取り合わせの樹木と小鳥が近くにいることに気づきました。樹木と小鳥と種類は異なりますが、共に私の生活に変化を与え毎日を楽しくさせてくれています。
漢字の方は出所も意味もよく分かりましたが、読みのサルスベリ、カワセミは出所も由来もはっきりせずに調べは終わりました。
丸二年に及ぶコロナ禍です。以前と同じ生活環境は戻ってこないでしょう。日々の生活リズムは回復してもモノの見方や価値観は同じではないでしょう。生きていることに感謝し日々を大切にする人が増えてくることと思います。私もその一人だと思います。


編集後記
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 花粉症のシーズンは、鼻や喉に症状が出て悩まれる方が多いようです。
呼吸は、健康保持、特に老化にも影響するので要注意です。次の項目をチェックし、該当数が多ければ、呼吸機能が落ちている可能性が高いそうです。
(https://gooday.nikkei.co.jp/i_cid=nbpgdy_sied_breadcrumb>(日経Gooday4/1より)

・心 肺機能に特に問題はないのに、階段や坂道を上ったり、急いで歩い     たり走ったりすると息切れがする
・大きく息を吸っても、肺に十分な空気が入っていない感じがする
・デスクワークやパソコンに向かっている時間が長く、なんとなく息がつまるような感じがする
・スマートフォンや携帯電話を操作するとき、首が前に傾く「スマホ首」、背中を丸めた「猫背」、肩が縮こまった「巻き肩」など、姿勢が悪くなっている
・ちょっとしたことでも不安になりやすい性格だと思う
・緊張したりストレスを感じたりすると、ドキドキして呼吸が荒くなる

 『良い呼吸』は深くてゆったりした呼吸で、悪い呼吸は浅くて速い呼吸だそうです。良い呼吸を習得して元気に過ごしたいものです。

今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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 第441号・予告
【書  評】 片山恒雄 『俳句武者修行』
             (小沢昭一著  朝日新聞社)
【私の一言】 幸前成隆 『任にたえうるか』
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                                            VOL.431

               
評 論 の 宝 箱
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第431号 目次
・【 書 評 】   片山恒雄 『復活の日』 (小松左京著  角川書店) 
・【私の一言】  幸前成隆 『五悪を具備する者』



・【書 評】
┌────────────────────────┐
◇                   『復活の日 』
◇         (小松左京著  角川書店) 
└────────────────────────┘
                                   片山 恒雄


 現在世界はコロナウイルスが蔓延し、一年を過ぎてなお終息の見通しすら覚束ない。今から45年前に出版された本書が、現在を予言するかのように酷似した世界を描き出した著者に畏敬の念を覚える。45年前とはどういう時代であったか。EUはEEC(欧州経済共同体)と呼ばれ、地球の人口は35億人(現在は78億人)。
世界は冷戦時代で、米国とソ連の二大強国の影響下にあり、宇宙は当時の望遠鏡の可視能力から30億光年の規模と考えられていた(現在は137億光年)。

 当初はチベット風邪と看做されていたが、またたく間に広まって行き、世界の人口の80パーセントが失われた。社会を動かす機構・基盤は円滑に作動しなくなり、誰もが地球から哺乳動物が姿を消すものと予感した。事実結果的には全滅し、人間は風雨にさらされて、ぼろきれきれと化した服装のまま白骨化し、路上に捨て置かれていた。しかし、地球観測年で南極に集結した7つの先進国の研究者ら1万人あまりと2隻の原子力潜水艦の乗組員だけが生き残った。読み進めるうちに益々深刻化していく事態の中でいったん本を閉じ、「復活の日」という表紙に改めて目を落とし、最後には明るい未来が開けてくるという希望にすがりつつ、読み進めるのであった。

 ウイルスの源泉は結局火星から飛来した微生物であったが秘密にされ、世界中の人々はチベット風邪を信じ続けた。一方でこのウイルス細胞を生物兵器として活用する動きも出てきた。更に変異種が数多く発生するなど、現在のコロナイイルス現象とあまりにも酷似していることに驚く。著者の専門的知識の深さと広さについては、本書を解説した渡辺格氏(慶応義塾大学教授で生化学者)ですら驚嘆している。

 また、ヘルシンキ大学の文明史専攻の教授の口を借りて、ウイルス感染で死に瀕するなか、最後の力を振り絞っての退官講義で見せた13ページに及ぶ「文明史論」は、この稿だけで今でも優れた論考として通用すると考える。一方、アメリカ最後の大統領を務めたシルバーランドはトランプ前大統領に酷似している。無教養且つ独善的で他人を信用しない。憎悪・孤立・頑迷・無知・傲慢・貪欲を一身に背負った男で、この緊急事態に備え、先手を打ってARS(全自動報復装置で、大統領のボタンの一押しで、モスクワに向けて核を搭載したミサイルが発射される)の作動を決断する。そうなると当然モスクワからも直ちにワシントンに向けて同じことが行われ世界は破滅する。それを回避すべく南極の二人の研究員が特使隊として選別され、ワシントンに向けて出発する。
一人は米国人カーターで、大統領官邸の構造に詳しい人物、もう一人は日本人の若き地質学者である吉住であり、彼はアラスカを震源地とする超巨大地震(マグニチュード9以上)がごく近い将来発生することをデーター分析から確信していた。しかしようやく辿り着いた大統領官邸の地下9階の発射ボタンをオフに切り替えることは出来ないままに終わる。幸いなことに米大統領の予想に反して、モスクワからの同時的反撃はなされなかった。

 さて、生き残った1万人余りの南極の人たち(男約1万人、女16人)はどうなったか。男女間の性の営みは粛々と行われ、新しい生命が一人また一人と誕生していく。生命を支える蛋白質はペンギンとアザラシの肉で確保されたが、自給自足の生活には限界がある。一同は考えた末に南極大陸からの脱出を決意する。小さな帆船を作り、少人数ずつ出航し、南米大陸に到達する。そして彼らは思いがけない人物と遭遇する。ARSのスイッチをオフにする使命を帯びて先に出発し果たせなかったまま生き残った一人の男は驚異的な精神力で何か月もかけてワシントンから南米まで歩き続けてきた見る影もないほどにやせ衰えた吉住であった。彼を一番初めに見つけたのは、南極で多くの男性の性の処理をほとんど一人で引き受けた金髪の豊満な老女イルマであった。多くの男性の中にあって、吉住だけが性交渉を断り、毎日の労をねぎらった上で丁寧に肩まで揉んでくれ、彼女の只一人の忘れ得ぬ人となった男性その人であった。そして吉住と南極隊員の遭遇の日こそが、人類復活の日であることを予感させつ
つ本書は終わる。

 社会全体がウィルスに困惑し、まともな日常生活や経済活動が脅かされている今こそ、本書を繙く人間が一人でも多いことを祈る。危機に臨んでは、常に最悪の事態を想定し対処せよという危機管理の鉄則について、果たして現在政府・学会・業界ひいては我々一人一人がどれほど肝に銘じているか。そう考えると寒々とした寂寥感に打たれる思いがする。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

             『五悪を具備する者』
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「天下を治むるの要は、姦を除くにあり(呂氏春秋)」。
十八史略に、孔子が魯の攝相となって、
「七日にして、政を乱しし大夫少正卯を誅す。居ること三月にして、魯、大いに
 治まる」とある。

荀子・宥坐篇と孔子家語・始誅に、その事情が詳しく出ている。
孔子の門人が、心配して、
「かの少正卯は、魯の聞人なり。夫子、政を為して始めに誅せるは、失なきや」
と問うた。
孔子、答えて曰く。
「居れ、その故を語げん。人に悪しき者、五つ有り。盗竊は与らず。
一に、心、達にして険。
二に、行、辟にして堅。
三に、言、偽にして弁。
四に、記、醜にして博。
五に、非に願って沢。
この五者は、人に一つ有りとも、君子の誅を免れず。而るに、少正卯は、これを
兼ね有す。故に、居所は、徒を聚めて、群を成すに足る。言談は、邪を飾りて、
衆を惑わすに足る。強は、是に反して、独立するに足る。これ、小人の桀雄なり。
誅せざるべからず」。

 理由を言おう。人には、悪むべきものが五つある。

一つは、心が穿鑿好きで、陰険なこと。

二つは、行為が偏っていて、かたくななこと。

三つは、言葉が嘘だらけで、弁が立つこと。

四つは、悪いことばかり記憶していて、博いこと。
五つは、悪いことをして、潤すこと。

 この一つでもあれば、誅を免れないのに、少正卯は、すべて兼ね備えている。だから、派閥を作って、民衆を惑わし、独立するほどになった。小人の大親分で、誅殺しなければならない。

 書経には、「悪を除くには、本を務む」とある。


編集後記
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
 師走に入りました。今年もあと1カ月です。
年を重ねるごとに一年が早く感じられますが、これに関してはジャネーの法則
があります。「生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する(年齢に反比例する)」ということで、具体的には、生きてきた年数によって一年の相対的な長さがどんどん小さくなり、時間が早く感じるということで
す。その理由としては、大人になるにしたがって、新しい経験をする機会が失
われ、日々の生活に新鮮味がなくなるからとも言われてれています。

 コロナ問題も含め大人でも未経験のことが多い昨今ですが、来年の早さはどんなものでしょうか。

今号もご寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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第431号・予告
・【 書 評 】   吉田竜一  『アメリカはいかに日本を占領したか
                                   ―マッカサーと日本人』
                      (半藤一利著 PHP文庫) 
・【私の一言】  加藤 聡 『もつべきは友、得がたき学友』


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                                      VOL.430

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第430号目次 

・【書  評】   西川紀彦 『岐路に立つ中国』  

                 (津上俊哉薯 日本経済新聞出版社) 

 ・【私の一言】  岡本弘昭 『日本人の性格』

 

 

 ・書 評 ┌───────────────────────┐ ◇           『岐路に立つ中国 』 

◇      (津上俊哉薯 日本経済新聞出版社)  └───────────────────────┘                              西川 紀彦 

 

 約10年前の2011年に出版されたものであり現在時点で見ると多少違いがある かもしれないが(勉強不足でよくわからないが・・・)、中国の経済 社会  の基礎的体質とその問題点を鋭く指摘した優れた本であると思う。著者は中国 大使館勤務の経験もある通産官僚出身のエコノミストで、最近テレビ等で時々 お目にかかる。主題は、中国が米国を抜くか並びの地位に行けるかどうかを 考察するに際して、7つの壁を乗り越えられるか改善しなければならない問題点 を摘出している。

それは以下の通り。

1. 人民元問題の出口は見つかるか 

2. 都市と農村「二元社会」を解消できるか

3. 「国退民進」から「国進民退」への逆行を止められるか 

4.政治体制改革は進められるか

5. 歴史トラウマと漢奸タブーを克服できるか

6. 「未富先老」問題を解決できるか

7. 世界に受け入れられる理念を語れるか

 この中で特に記憶に残ったのは、二元社会の解消、「国退民進」から「国進民 退」、及び「未富先老」である。 

 

 二元社会とは都市と農村の隔壁である。経済発展のためには農村人口の都市 への移住を容易にして工業化の担い手として充足することは求められ、日本で も見られた現象であるが、中国においては特殊な要素がみられる。

 第一に農民の戸籍は都市に移すことができない(又は制限されている)制度に なっていることだ。察するに13億の民の自給を可能にするには、食糧生産確 保のため自由な農業放棄は認められないことと、社会保障や諸権利の付与を都 市市民と同じようには認めないこと、第二に地方政府の権限が強く、むやみな 農地利用権の低額買い上げ、ディベロッパーへの高額売却によって税収確保と ともに都市化の過度な進展を止めさせることに要因がある。このため農民と都 市住民との間には収入格差は益々拡がって社会不安の要因となっている。  「国退民進」から「国進民退」への逆行が進んでいる点について、官製資本 主義で工業化を進めているため、特定大企業に厖大は財政投資の恩恵がいく、 このため内部留保の富が民に行き渡らないことだ。巨大な国有企業を育成し列 強の多国籍企業と渡り合うようにならなければならないという“国際関係心理 学”と著者が名付ける歴史的なトラウマがある。特定大企業に富が蓄積されて 外部に放出されないことは、社会保障財政への充当が十分できないことや、一 般企業の賃金水準を抑制する要因になっていることは日本の大企業の巨大な内 部留保にも当てはまることである。

 

 「未富先老」は評者が最も感銘を受けた点である。即ち人口構成の変化が将 来の国運を大きく左右する点に注目した論考で、1970年代に始まったに一人っ 子政策の影響で2016年人口はピークを迎え減少に転じ従属人口が以後急速に増 加することだ(注;2016年二人っ子政策に転換、若年人口が増えて、2020年現 在減少に転じたとの明確な報道を評者は確認していない)。この人口ボーナス 逆回転の影響は、まず成長率の低下→社会保障財源の低下、賃金の低水準維持、 貯蓄率は上昇するが消費水準は低迷、一部大企業だけが反映することで格差が 拡大等、日本でも見られる現象がいずれ鮮明になることだ。そもそも中国は日 本が1990年代に遭遇した経済社会構造に20年前後遅れて追いかけているようだ。 この人口ボーナス現象は通常なら50年以上の長い期間を過ぎてノーマルな人口 構成に解消されていくのだが、中国は一人っ子政策、日本は戦後のベビーブー ムとその子の世代がもたらしたもので、中国も日本と同じように失われた○○年 という時代を今後経験することがかなり確実ということだ。  この人口ボーナスの逆回転に以下に対処して解決策を見出すかがポイントになる。 

 

 着目点は

 1) 生産性の向上が如何に進み低成長率が改善するか 

一説には7%程度の成長率が維持できないと社会不安が起こるという 社会制度の改善、教育水準向上、環境・健康状況の改善によって全要素生産性 の向上=技術投入の増大を実現できるか 

2) 都市・農村の二元社会の解消、地方政府・行政への中央監督力が進むか、 

これは官製資本主義の打破にも関連する。

 3) 社会保障政策の推進、格差の解消が革命的に進むか  

 

 著書の後半で、中国と米国との覇権争いの見通しについて述べているが、見 解としては21世紀前半中は交代はあり得ない、後半になると米国を抜くという よりも並列して世界に君臨する予想のようだ。しかし覇権国になるには、世界 に受け入れられるような理念・国際関係観を打ち出すことができるか、東洋思 想観を世界に受け入れられる条件は何かが問われる。同時に日本も21世紀後 半になれば人口ボーナスの逆回転は解消して世界に貢献できるような国になる 可能性に期待している。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 

 

              『日本人の性格』 ─────────────────────────                               岡本 弘昭

 

 イギリス・ニューカッスル大学生物心理学准教授であるダニエル・ネトル氏 が研究する「ニューカッスルパーソナリティ尺度表(NPA)」による日本人の性格診断によると(サンプル数は563名、男性30%、女性70%、平均年齢34.87歳) と、ネトル准教授が指定する平均値との比較で、日本人の神経質傾向は0.756ポ イントであった。

これはNPAの診断結果の平均値0.65ポイントに対し、0.106ポ イント高いという。(株式会社プロセスジャパン調べ)。 これは、日本人は神経質傾向が高い事を意味し、「ネガティブな感情を感知・ 警戒する能力が高い」、「自己を低く評価する傾向がある」、「苦労に対して 強く影響を受ける」、「ネガティブな出来事を引き寄せる傾向にある」等の特 徴があるという。

  日本は世界のなかで一人当たりのGNPは極めて高い国にもかかわらず、2019 年の「幸福度ランキング」は60カ国中58位であった。これは、日本人は、幸せ を感じるのが下手で本当は幸せなのにそのことに気づいていないという事でな いかという指摘があるが、これも上記のような日本人の性格の影響があるので はないか。

 

  性格を構成する要因として遺伝子がある。セロトニンという神経伝達物質が 脳内から減ると、人は不安を感じたり気分が落ち込んだりしやすい。その分泌 量を左右するのが「セロトニントランスポーター遺伝子」で、これにはセロトニンの分泌量の少ない「S型」と、分泌量の多い「L型」の2種類があり、その 組み合わせによって、「SS型」「SL型」「LL型」の3つに分かれる。 日本人はSS型の遺伝子を持っている人の割合が65%に及ぶという。

 

 つまり、日 本人は不安を感じやすい民族ということになる。 この背景としては、地震、津波、台風、火山など「災害大国」の日本では、災 害から自分や家族の身を守るために、日本人は不安遺伝子を育ててきたのでは ないかとも言われている。

  性格は大雑把に言って半分くらいは後天的に変わるとも言われているが、即座に日本人の不安遺伝子が減少することはないであろうから、国家はもとより それぞれの組織に於いては、このような性格を前提とした諸策をとる必要があ る。特に諸外国等との各種比較に置いてはこの点を留意する必要があろう。

 

  なお、上記のダニエル・ネトル氏によると神経質傾向が高い人に「成功者、 革命家」が多いという指摘もある。我が国の喫緊の課題は人材確保と育成であ るが、この場合も単純に諸外国を真似することなく日本人の性格を生かした政 策を考慮する必要があろう。

 

 

 編集後記 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴    岸田内閣の57%はいわゆる世襲政治家だそうです。この理由としては、世襲 じゃない人の議員立候補はハードルが高いという事もありますが、主原因は国 民が、世襲政治家を選ぶからです。 

 アメリカの心理学者ザイアンスに「ザイアンスの3法則」というのがあります。

 ・人は見知らぬ人には冷淡に対応する 

 ・人は会えば会うほど親しみを感じる   

 ・人はその人の人間的側面を知るほどにより親近感を抱く

 

 世襲議員はこれににかなっていると言われています。世襲議員全員が悪いとい うわけでありませんが、有権者はれぞれの政策や主義を知って選挙に臨むべき でしょう。このままでは政治も家業化し時代の変化に弱くなる可能性が高いの ではないでしょうか。

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 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴ 第431号・予告

 ・【書  評】   片山恒雄 『復活の日』

                   (小松左京著  角川書店)

 ・【私の一言】  幸前成隆 『五悪を具備する者』 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★               ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。

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                                    2021年11月1日
                                       VOL.429

              
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第429号目次
・【書  評】    片山恒雄 『本居宣長━文学と思想の巨人』
                      (田中康二著  中公新書) 
・【私の一言】  幸前成隆 『自慢するな』




・書 評
┌───────────────────────┐
◇          『本居宣長━文学と思想の巨人 』
◇           (田中康二著  中公新書) 
└───────────────────────┘
                                片山 恒雄


 私は四十数年前に伊勢・松坂の「鈴屋」(すずのや・宣長の書斎)を訪れたことがある。
 積み上げられた膨大な和綴じの著作に加え、黒くなるまで推敲を重ねた草稿、自ら詠んだ和歌を賛にした自画像(彼は日本画も能くした)の掛け軸、端正な文机などが整然と置かれ、まさに明窓浄机の感があり、暫し一室にたたずんで、圧倒された。彼が詠んだ「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」の和歌に彼の学問上の本質が余すところなく表現されている。

 江戸時代の学問と言えば、主流は漢学であり、思想は儒学であり、中でも朱子学は官学として位置づけられていた。為政者にとって都合の良い思想だったからである。その中にあって彼は漢学を「漢才(からざえ)」と称して軽侮し、儒学を「唐(から)ごころ」として排斥したのはかなり勇気の要ることであったに違いない。しかし彼は己れの思想・学問を忠実に貫き、臆するところがなかっ
た。家業は商家であったが、学問への志やみがたく、伊勢から京都に出て、医学を学んだ。しかし師である堀景山(ほりけいざん)は国学にも優れており、宣長は次第に国学に惹かれていった。彼が慕っていたのは、国学の祖と言われた僧契沖であったが、その学問を引き継いだのが賀茂真淵であった。偶々真淵が江戸から伊勢参りの途中で松坂に立ち寄るという情報を得た宣長は、待ち伏せをして真淵に会い、以後数年にわたり文通により真淵の薫陶を受けることになる。彼が真淵から学んだことの一つに「もののあはれ」がある。これを発展させたのが宣長であった。美しいものを目で見てそれを頭の中で知覚し、さらに心を動かすという過程を経て、「もののあはれを知る」という作業が発動するとした。それを物語として体現したのが、源氏物語であった。彼はこれを精読し、原典の間隙部分を紫式部流の表現で書き加えて門弟に講義した。また彼が追及した思想の一つに「言(ことば)と事(わざ)と心(こころ)の一致」という考えがある。すなわち人のすることや人の思う心のうちは、人の言う言葉の中に現れるから、言葉を逆に辿り直すことによって、人のしたことや思ったことを再現することが出来る。この思考は宣長の言語論の中心をなす考え方となった。

 その後も真淵との子弟間の交流は続くが、宣長は自説にこだわるあまり、師を容赦なく批判したために、両者の関係は次第にぎくしゃくしてくるが、それほど宣長の学問に向き合う態度がひたむきであり、完璧主義者であった。宣長は学問体系を四つに分類している。すなわち神学・有識学・古書学及び歌学である。中でも神学は日本書紀を中核とした「道」を追求する学問である。この道は、天照大神の道であり、天皇の天下を統治なさる道、すなわち四海万国にあまねく通ずる道である。この中で大和魂は、日本の古代から通ずる道であると位置づけている。

 こうして彼は学問の幅を広げ、内容を深めていく。自ら万葉集や古今集の表現方法に合わせた古歌とともに、現代風の和歌も習得し詠んでいった。並行して国学にも励み、古事記・日本書紀をはじめ古来の歴史書を精読し、日の本は天照大神が知ろしめす神の国であり、皇国の神の真理は、「直毘霊(なおびたま)」(注)であるとした。従って仏を神の上に置くことを許さなかった。
  注) 宣長が著わした古事記伝によると我が国の国体の特色を書いたもの               である。(広辞苑)

 彼はまた国学を発展させて、国文学の分野に分け入って、古文の研究の成果を書籍として出版した。中でも文章の関連づけ・強調・リズムを整える時などに使われる「係り結び」(ぞ・なむ・や・か・こそ)や動詞の分類(自動詞・他動詞)・動詞の活用(四段・上一段・下一段)の分野では一家をなし、現代における国語研究の水準に達していたとされる。彼の長男は幼少時から盲目であっ
たので、弟子の中から養子を迎え後継者とすることを考えたが、長男も学問への精進を怠らず、業績を残した。養子は「大平」という名で、宣長の学問をさらに発展させた。

 宣長は齢七十歳となり、死を意識するようになると、死に支度を始めた。墓を二つ用意することとし、棺を入れる墓は土を固く盛り、石塔をあつらえ、山桜を植えた。毎月命日には弟子を呼んで歌会を催すこととし、その折の掛け軸まで指定した。彼の完璧なまでの学問に対する姿勢と通ずるものがある。しかし死の準備が整ってからも、ますます旺盛に活動(彼は紀州藩主に仕えるとともに、加賀藩主、浜田藩主にも進講していた)し、弟子たちへの講義も怠らなかったが、予定から遅れること一年の後、風邪がもとであっけなく急逝した。

 彼の思想は、水戸藩の大日本史の編纂にも組み入れられると共に、幕末の尊王攘夷の思想にも骨格を与えた。更に維新後は、近代国家の精神的な支柱ともなり、天皇主権に基づく国家神道にも利用された。さぞかし宣長は泉下で苦笑しているのではなかろうか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

              『自慢するな』
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                              幸前 成隆


 世の中には、「俺がどうした、こうした」と、自慢をし威張りたがる人がいる。  
壊れたテープレコーダーのように、止まることなく、エンドレスに、自慢話をする人。ほんの少しの仕事しかしていないのに、仕事全体を一人でしたかのように言う人。他人のしたことなのに、これを横取りして、自分の手柄のように言う人。様々である。

 実力があるかないかは、すぐ分かる。実力がないのに背伸びするのは、見苦しい。品性がよく分かる。
 能ある鷹は爪を隠す。

「良賈(こ)は深く蔵(おさ)めて、虚しきが如く(老子)」。
できる人は、威張らない。謙虚である。
「をこにも見え、人にも言ひ消たれ、禍をも招くは、ただこの慢心なり(徒然草)」。
 仕事は、一人でできるものではない。多くの人の協力があって、始めて成果が上げられるのである。「おれがおれが」と言えば言うほど、反発を買う。協力を失う。
「おれがおれが」と威張るより、「おかげおかげ」と感謝するのが大事である。
「皆様のおかげです」と感謝していると、協力が増える。さらに大きな仕事ができる。
「おれがおれがの『が』を捨てて、おかげおかげの『げ』で暮らせ」。
「実るほど頭を垂るる稲穂かな」。

人間、お世話になった人に感謝し、謙虚に過したいものである。



編集後記
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 「善は急げ」に対し、「急いては事をし損ずる」とも言われます。また、
「待てば海路の日和あり」という諺がありますが、「思い立ったが吉日」とも言います。さらに、「急がば回れ」というように一つの諺の中で矛盾を言い表したのもあります。これは、同じものでもおかれた場所あるいは立場が異なると、恵みにもなるし災いにもなりますし、食べ物でもそれを食べる人が違えば、薬にもなるし毒にもなる、つまり、物事には常に二面性があるということです。

 今回の選挙で、バラマキ政策の主張が多くありましたが、これはその反面として中長期的には財政問題があります。従って、これも立場によってその是非が変わるといえます。いずれをとるにしても我々国民は政策の二面性を理解して今後の政策実行を見守る必要があるといえましょう。    
今号もご寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

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第430号・予告
・【書  評】  西川紀彦 『岐路に立つ中国』
                   (津上俊哉薯 日本経済新聞出版社) 
・【私の一言】  岡本弘昭 『日本人の国民性』

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     ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。
     ■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
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           MAIL:hisui@d1.dion.ne.jp

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                              2021年10 月15日

                                      VOL.428

              評 論 の 宝 箱

             https://hisuisha.jimdo.com

            https://ameblo.jp/hisuisya/ 

            見方が変われば生き方変わる。

             読者の、筆者の活性化を目指す、

             書評、映画・演芸評をお届けします。

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第428号目次

・【書  評】  桜田 薫 『最後の将軍─徳川慶喜』

               (司馬遼太郎著 文春文庫) 

・【私の一言】  吉田竜一 『人間中心のAI 社会原則』

 

 

             

・書 評

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◇            『最後の将軍─徳川慶喜 』

◇           (司馬遼太郎著 文春文庫) 

└───────────────────────┘

                                桜田 薫

 

  今放映中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で陰の主役になっているが、徳川慶喜は最も興味深い歴史上の人物の一人だ。本書で周知の幕末期の歴史的事実を背景に、司馬遼太郎の解釈する慶喜の人間像が詳しく紹介される。彼は人並外れて女色を好むが聡明で、誰よりも先が見える人物だったと著者は言う。時代の転換期における政治家として極めて難しい決断をしたが、長州征伐の判断(途中で中止)など矛盾や間違いもあった。徳川家の統領でありながら、大政奉還や辞官納地(400万石を朝廷に返納)を簡単に決断し、鳥羽伏見の戦いでは部下を見捨てて江戸に脱出し、その後はひたすら恭順した。

 

  幕府の利益を損ない幕臣から嫌われ、それでも薩長からは敵と見られた。彼の作為あるいは不作為で平岡平四郎など忠実な家臣たちを殺され、戊申戦争では会津藩など徳川家に最後まで忠義を尽くした多数に悲劇をもたらした。彼の評判も地に落ちたが、明治維新という革命の成功は彼の功績に負うところが大きい。内戦もあまり長引かず、外国の侵略も受けずに日本に新政府が誕生した。

 

 本書で私は初めて知ったが、水戸徳川家には「江戸の徳川家と京の朝廷のあいだに弓矢のことがあれば潔く弓矢を捨て、京を奉ぜよ」という水戸光圀以来の秘密の言い伝えがあった。徳川政権は朝権委任によって成立したという徳川初代家康にはなかった認識だ。大政返還を含む慶喜の行動はこれで説明できよう。尊王攘夷は幕府と対立した薩摩、長州の志士たちが唱えたスローガンだが、孝明天皇は頑固な攘夷派ながら佐幕派でもあった。慶喜の父で水戸藩主の徳川斉昭は勅許を得ずに米国と通商条約を結んだ井伊大老と対立したが、本心は攘夷に賛成ではなかったという。慶喜は当初から開国派だが、孝明天皇の信頼も厚く、長州征伐の勅令を得たように宮廷工作もできた。歴史に「もし」はないが私の感想を言えば、彼が朝廷を動かして薩長と幕府側諸藩を説得しておれば、坂本龍馬が提案したような議会制の新政府が内戦もなく成立したかもしれない。

大阪城脱出に際して慶喜は会津藩主松平容保と弟桑名藩主松平定敬を伴った。

 二人は将軍護衛と思って付き添ったが、御用艦回陽に落ち着くと彼はひたすら恭順を貫く意思を明らかにする。二人は謀られたと思った。慶喜の心情や発言は司馬遼太郎の小説だけの解釈としても印象に残る場面が多くある。著者は後書きで、2年足らずの将軍だった彼のことを十分に書き足りなかったので悔恨が残ると述べている。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

            『人間中心のAI 社会原則』

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                                吉田 竜一

 

 最近ではネット上の買い物をすると、次回から自分にお勧めの商品が示されることがしばしばあり、それに誘導されることがある。これはAI(人工知能)に誘導され人間が自分で考えることをやめることにも通じるといえる。今後この傾向は強まる可能性が高い。また、例えば囲碁や将棋の世界では、AIがその道の達人を破るということも生じており、AIが人間の知恵をしのぎつつある面があると見える。

 

 AI が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、または、それがもたらす世界の変化のことをいう言葉としてシンギュラリティというのがある。米国の未来学者レイ・カーツワイルがその概念を提唱したもので、それは2045年に来るという予測をしたそうである。このような時期・時代には、人間は、例えば、「人がヒトである理由、つまり考える事が激減する可能性があり、AIに頼り続けヒトがAIに従属する」可能性もある。それは、主体の逆転が起こり、人間は「AIに操作される存在になり、もう人間ではなくなる」という指摘もあるぐらいである。

 

 このようなAIの動向を受け、内閣府では2019年に「人間中心のAI社会原則」を策定している。

この概要は、本格的なAI社会を迎えるにあたって「社会」と「研究開発する側」が次の点を守り明るい社会を実現しようとするものである。

 

1 人間が主役の社会(人間の尊厳が尊重される。)

2 みんなが幸せになる社会(多様な背景を持つ人々が幸せを追   求する)。

3 幸せが続いていく社会(持続性のある)

 

要は、AIが登場しても主体はあくまでも人間でありAIに依存しすぎることなく、人間主体の社会の実現を目指す必要があると言うことである。このためには、AIの利益面あるいは利便性だけに目を向ける事なく、AIの役割はあくまでも人間を補助するということであることを強く認識する必要がある。

 

そのためには、「人々が人間の存在意義を改めて理解する」ことが前提であり、また同時に「人間の存在意義を理解している人に人間と共存可能なAIの開発を行ってもらう必要がある。」ということになる。

いまや「人間中心のAI社会原則」の幅広いPRにより、多くの人がこれに理解し実行すべき時期にきている。

 

 

編集後記

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 オックスフォード大学などの、欧州27カ国および米国・チリを対象とした

調査によると、多くの国の2020年の平均寿命は2015年のそれよりも低く、過去5年間の延びが帳消しになったそうです。これは新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、多くの国で寿命が縮まったと言うことです。(日経10/10)

2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳で、前年比男性は0.23歳、女性は0.29歳の伸展で、いずれも過去最高を更新したそうです(厚生労働省)。つまり、日本は幸いにしてコロナウイルスによる寿命への影響は見られないようです。

「日本では、手洗いや消毒でインフルエンザによる死亡者が減ったことが平均寿命の伸展の一因」とも指摘されていますが、第6波の到来予想もあり予断は禁物です。今後とも慎重な生活が期待されるといえます。

 

今号もご寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

 

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第429号

・【書  評】   片山恒雄 『本居宣長━文学と思想の巨人』

                   (田中康二著  中公新書) 

・【私の一言】  幸前茂隆 『自慢するな』

 

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    ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。

    ■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭

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