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                                      VOL.430

              評 論 の 宝 箱                                                         見方が変われば生き方変わる。             読者の、筆者の活性化を目指す、             書評、映画・演芸評をお届けします。        

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第430号目次 

・【書  評】   西川紀彦 『岐路に立つ中国』  

                 (津上俊哉薯 日本経済新聞出版社) 

 ・【私の一言】  岡本弘昭 『日本人の性格』

 

 

 ・書 評 ┌───────────────────────┐ ◇           『岐路に立つ中国 』 

◇      (津上俊哉薯 日本経済新聞出版社)  └───────────────────────┘                              西川 紀彦 

 

 約10年前の2011年に出版されたものであり現在時点で見ると多少違いがある かもしれないが(勉強不足でよくわからないが・・・)、中国の経済 社会  の基礎的体質とその問題点を鋭く指摘した優れた本であると思う。著者は中国 大使館勤務の経験もある通産官僚出身のエコノミストで、最近テレビ等で時々 お目にかかる。主題は、中国が米国を抜くか並びの地位に行けるかどうかを 考察するに際して、7つの壁を乗り越えられるか改善しなければならない問題点 を摘出している。

それは以下の通り。

1. 人民元問題の出口は見つかるか 

2. 都市と農村「二元社会」を解消できるか

3. 「国退民進」から「国進民退」への逆行を止められるか 

4.政治体制改革は進められるか

5. 歴史トラウマと漢奸タブーを克服できるか

6. 「未富先老」問題を解決できるか

7. 世界に受け入れられる理念を語れるか

 この中で特に記憶に残ったのは、二元社会の解消、「国退民進」から「国進民 退」、及び「未富先老」である。 

 

 二元社会とは都市と農村の隔壁である。経済発展のためには農村人口の都市 への移住を容易にして工業化の担い手として充足することは求められ、日本で も見られた現象であるが、中国においては特殊な要素がみられる。

 第一に農民の戸籍は都市に移すことができない(又は制限されている)制度に なっていることだ。察するに13億の民の自給を可能にするには、食糧生産確 保のため自由な農業放棄は認められないことと、社会保障や諸権利の付与を都 市市民と同じようには認めないこと、第二に地方政府の権限が強く、むやみな 農地利用権の低額買い上げ、ディベロッパーへの高額売却によって税収確保と ともに都市化の過度な進展を止めさせることに要因がある。このため農民と都 市住民との間には収入格差は益々拡がって社会不安の要因となっている。  「国退民進」から「国進民退」への逆行が進んでいる点について、官製資本 主義で工業化を進めているため、特定大企業に厖大は財政投資の恩恵がいく、 このため内部留保の富が民に行き渡らないことだ。巨大な国有企業を育成し列 強の多国籍企業と渡り合うようにならなければならないという“国際関係心理 学”と著者が名付ける歴史的なトラウマがある。特定大企業に富が蓄積されて 外部に放出されないことは、社会保障財政への充当が十分できないことや、一 般企業の賃金水準を抑制する要因になっていることは日本の大企業の巨大な内 部留保にも当てはまることである。

 

 「未富先老」は評者が最も感銘を受けた点である。即ち人口構成の変化が将 来の国運を大きく左右する点に注目した論考で、1970年代に始まったに一人っ 子政策の影響で2016年人口はピークを迎え減少に転じ従属人口が以後急速に増 加することだ(注;2016年二人っ子政策に転換、若年人口が増えて、2020年現 在減少に転じたとの明確な報道を評者は確認していない)。この人口ボーナス 逆回転の影響は、まず成長率の低下→社会保障財源の低下、賃金の低水準維持、 貯蓄率は上昇するが消費水準は低迷、一部大企業だけが反映することで格差が 拡大等、日本でも見られる現象がいずれ鮮明になることだ。そもそも中国は日 本が1990年代に遭遇した経済社会構造に20年前後遅れて追いかけているようだ。 この人口ボーナス現象は通常なら50年以上の長い期間を過ぎてノーマルな人口 構成に解消されていくのだが、中国は一人っ子政策、日本は戦後のベビーブー ムとその子の世代がもたらしたもので、中国も日本と同じように失われた○○年 という時代を今後経験することがかなり確実ということだ。  この人口ボーナスの逆回転に以下に対処して解決策を見出すかがポイントになる。 

 

 着目点は

 1) 生産性の向上が如何に進み低成長率が改善するか 

一説には7%程度の成長率が維持できないと社会不安が起こるという 社会制度の改善、教育水準向上、環境・健康状況の改善によって全要素生産性 の向上=技術投入の増大を実現できるか 

2) 都市・農村の二元社会の解消、地方政府・行政への中央監督力が進むか、 

これは官製資本主義の打破にも関連する。

 3) 社会保障政策の推進、格差の解消が革命的に進むか  

 

 著書の後半で、中国と米国との覇権争いの見通しについて述べているが、見 解としては21世紀前半中は交代はあり得ない、後半になると米国を抜くという よりも並列して世界に君臨する予想のようだ。しかし覇権国になるには、世界 に受け入れられるような理念・国際関係観を打ち出すことができるか、東洋思 想観を世界に受け入れられる条件は何かが問われる。同時に日本も21世紀後 半になれば人口ボーナスの逆回転は解消して世界に貢献できるような国になる 可能性に期待している。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 

 

              『日本人の性格』 ─────────────────────────                               岡本 弘昭

 

 イギリス・ニューカッスル大学生物心理学准教授であるダニエル・ネトル氏 が研究する「ニューカッスルパーソナリティ尺度表(NPA)」による日本人の性格診断によると(サンプル数は563名、男性30%、女性70%、平均年齢34.87歳) と、ネトル准教授が指定する平均値との比較で、日本人の神経質傾向は0.756ポ イントであった。

これはNPAの診断結果の平均値0.65ポイントに対し、0.106ポ イント高いという。(株式会社プロセスジャパン調べ)。 これは、日本人は神経質傾向が高い事を意味し、「ネガティブな感情を感知・ 警戒する能力が高い」、「自己を低く評価する傾向がある」、「苦労に対して 強く影響を受ける」、「ネガティブな出来事を引き寄せる傾向にある」等の特 徴があるという。

  日本は世界のなかで一人当たりのGNPは極めて高い国にもかかわらず、2019 年の「幸福度ランキング」は60カ国中58位であった。これは、日本人は、幸せ を感じるのが下手で本当は幸せなのにそのことに気づいていないという事でな いかという指摘があるが、これも上記のような日本人の性格の影響があるので はないか。

 

  性格を構成する要因として遺伝子がある。セロトニンという神経伝達物質が 脳内から減ると、人は不安を感じたり気分が落ち込んだりしやすい。その分泌 量を左右するのが「セロトニントランスポーター遺伝子」で、これにはセロトニンの分泌量の少ない「S型」と、分泌量の多い「L型」の2種類があり、その 組み合わせによって、「SS型」「SL型」「LL型」の3つに分かれる。 日本人はSS型の遺伝子を持っている人の割合が65%に及ぶという。

 

 つまり、日 本人は不安を感じやすい民族ということになる。 この背景としては、地震、津波、台風、火山など「災害大国」の日本では、災 害から自分や家族の身を守るために、日本人は不安遺伝子を育ててきたのでは ないかとも言われている。

  性格は大雑把に言って半分くらいは後天的に変わるとも言われているが、即座に日本人の不安遺伝子が減少することはないであろうから、国家はもとより それぞれの組織に於いては、このような性格を前提とした諸策をとる必要があ る。特に諸外国等との各種比較に置いてはこの点を留意する必要があろう。

 

  なお、上記のダニエル・ネトル氏によると神経質傾向が高い人に「成功者、 革命家」が多いという指摘もある。我が国の喫緊の課題は人材確保と育成であ るが、この場合も単純に諸外国を真似することなく日本人の性格を生かした政 策を考慮する必要があろう。

 

 

 編集後記 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴    岸田内閣の57%はいわゆる世襲政治家だそうです。この理由としては、世襲 じゃない人の議員立候補はハードルが高いという事もありますが、主原因は国 民が、世襲政治家を選ぶからです。 

 アメリカの心理学者ザイアンスに「ザイアンスの3法則」というのがあります。

 ・人は見知らぬ人には冷淡に対応する 

 ・人は会えば会うほど親しみを感じる   

 ・人はその人の人間的側面を知るほどにより親近感を抱く

 

 世襲議員はこれににかなっていると言われています。世襲議員全員が悪いとい うわけでありませんが、有権者はれぞれの政策や主義を知って選挙に臨むべき でしょう。このままでは政治も家業化し時代の変化に弱くなる可能性が高いの ではないでしょうか。

 今号もご寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

 

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 ・【書  評】   片山恒雄 『復活の日』

                   (小松左京著  角川書店)

 ・【私の一言】  幸前成隆 『五悪を具備する者』 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★               ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。

     ■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭             ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓             MAIL:hisui@d1.dion.ne.jp