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                   2024年3月1日 VOL.485

          評 論 の 宝 箱
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 第485号・目次
 【 書 評 】 亀山国彦『桜のいのち庭のこころ』
            (佐野藤右衛門著 草思社 初版1998.4.6)
 【私の一言】 幸前成隆『よく人を用いる 』
               

【書 評】
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◇            『桜のいのち庭のこころ』
◇          
(佐野藤右衛門著 草思社)
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                      亀山 国彦


 著者は、1928年京都生まれ。嵯峨野の広沢池の近くに住む造園業「植籐」の16代目。
佐野家はもともと御室仁和寺出入りの農家だったが、仁和寺御室御所の造園を担ってきた。
祖父の代からからサクラの育成も手掛け、以降三代にわたって「桜守」として知られている。
祇園枝垂桜、ケンロクエンキクザクラ、オオサワザクラなどの多くの栽培品種が著者に見いだされ、増殖されて全国にその名が広まった。
京都府立農林学校卒。造園業「(株)植籐造園」会長。桂離宮、修学院離宮の整備に従事。
2005年京都迎賓館の庭園を棟梁として造成。
1956年、彫刻家イサム・ノグチと共同でパリのユネスコ本部に日本庭園を造ったことをきっかけに世界各地に日本庭園を手掛けたことから、ユネスコのピカソ・メダル(1997)、黄綬褒章(2005)初め、多数を受賞。日本造園組合連合会常務理事。
本書は、大きく分けて、前半はサクラの良い品種を採集、栽培についての苦労話と、造園業の難しさについての後半に分かれ、京都言葉でつづられている。

  桜のいのち
日本では昔からサクラは大事にされてきたので、各地に名桜、名木がたくさん残っている。しかし木には寿命があり、これらの名桜もそのままではいつかは枯れてしまうので、後継ぎを作る必要がある。
しかし、実生で育つサクラは、日本に自生しているヤマザクラ、ヒガンザクラ、オオシマザクラのみで、その他はめしべが退化しているので接ぎ木で育てるしかない上、健康な芽の割合は少ないというハードルがある。
接ぎ木は、これから保存しようというサクラの芽(接ぎ穂)とその芽を育てる台木(挿し木で育てたヤマザクラ、またはオオシマザクラ)が必要になる。
時期の選定が重要で、2月末から3月初めに接ぎ穂となる新芽を切り出し、ミズゴケで切り口を保護し、1週間ほど寝かす。
3月15日頃、穏やかな晴れの日を選んで、挿し木で育てた台木の切り口を斜めに切って、外側の外皮と形成層の間にナイフを垂直に入れて切れ目を作る。
接ぎ穂も同様に形成層を露出させて、台木の形成層と合わさるように差し込んで、打ち藁(活着時にわらが腐って外れる)を巻いて固定(締め具合が重要)させる。
最後に土をかけ、その上にビニールシートを被せ、切り口に雨が入らないようにする。
ここまでを一日で千本を夫婦でこなす。注意しても歩留まりは高くはない。
サクラは雑種であるため、実生の場合でも、種を播けば同じ花が咲くわけではなく、
しかも、10年くらいしないと良否の見極めが出来ない。
こうして選別し、育てた苗木も、元の親のサクラが植わっている場所の都市化等による環境の変化、地質変化があれば元のような花は期待できない場合も多い。
このような苦労の中、三代にわたりサクラの苗木を育てて優秀なサクラを残そうとしている(現在、畑に数万本の苗木を育てている)。

 庭のこころー植木屋の今日と明日―
全国の植木屋の集まりで一番の問題は、本当の技術者というか職人が育たず、定着しないことだ。公共事業の場合は半分マニュアルで仕事をする、余計なことをせずに納期に間に合わせればよい。
しかし、本当の造園屋は、その人その人の技を使ってする仕事だ。技は一人ひとりみな違う。自然のものを扱うのだからその土地柄によってもみな異なる。そういう経験・技を持った人間が評価されないし、後継者も育たないということで、廃業していく人が多いのが残念だ。
1級から3級までの造園技能士制度ができたが、これは職人的な「根性」を忘れた制度で「ペーパー職人制度」だといえる。現状、専門課程の大学卒業生が3年くらいの現場経験を積むと1級受験資格を得る。このような新人は、学歴はなくても20年以上の経験を積んで相当に年を取ってから資格取得した職人と同様に扱われる。後者の方が格段に仕事の質が高いのにそれが待遇などに反映されない。また、長い下積みを経て技を身に着けてきた年配の人たちが、試験に合格しないこともある。修業は試験のためにやってきたのではないのだからやむを得ない。その結果、試験だけ通ってきた若い資
格者の手伝いをさせられては、腕のあるベテラン職人のやる気が失せるのは当然だ。
労働基準法で週40時間が義務化されたが、気象条件によっては作業の途中で中断しなければならないし、運送業者が土曜・日曜を休んでしまうと荷物が届かず、運送中に苗が弱ってしまうなど自然相手だから問題が多い。
昔、財閥が持っていた日本の庭を、今は法人が持っているところが多い。法人だと何とか維持はしていけるが、その代わり、手入れができない。お抱えの庭師が上手いことやってきた庭を法人が持ってしまうと、どうしても限られた予算のなかでしかやれないので、荒れる一方になる。
料理屋などでは、客が風景に金を払わなくなった。以前は雰囲気に納得していたが、それがなくなると経営者も客の回転だけを考えるからみな庭をつぶしてビルに建て替える。
個人も、相続税が高くなることを心配して立派な庭を造ることは諦める。
植木屋の仕事がなくなっていく運命にあるのではないか。
素人植木屋を10年余り続けている評者は、筆者に同感するところが大きい。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

          『よく人を用いる』
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                      幸前 成隆
 事の成否は、人をよく用いるか否かにある。十八史略に、漢の高祖が天下を得た所以を問うた話が出ている。 

 あるとき、高祖が洛陽の南宮で酒宴を開いて、「徹侯諸将、皆言え。吾れの天下を取りし所以は、何ぞ。項氏の天下を失いし所以は、何ぞ」と、尋ねた。
 高起・王陵が、陛下は戦いに勝つと、その利を分け与えられたが、項羽はそれができなかったのが、違いだと答えた。
 これに対して、高祖は、あなた方は一を知って、二を知らないと言った。
 曰く。「籌を帷幄の中に運らし、勝ちを千里の外に決するは、子房に如かず。国家を填め、百姓を撫し、餽餉を給し、粮道を断たざるは、蕭何に如かず。百万の衆を連ね、戦えば必ず勝ち、攻むれば必ず取るは、韓信に如かず。この三人は、皆人傑なり。
吾れ、よくこれを用う。これ、吾が天下を取りし所以なり。項羽は、一の范増あれども、用いること能わず。これ、その吾が禽となれる所以なり」。

 攻略をめぐらすのは、張良にかなわないし、国政を治めるのは、蕭何に及ばない。また、軍事になると、韓信にかなわない。しかし、この三人を使いこなせたのが、天下を取った理由で、項羽は、傑物の范増を使いこなせなかったから、負けたのだ。

 高祖が張良の献策を用いたから、張良も心服し、また、韓信を斎王とし、上将軍の印綬を授けたから、韓信は裏切らなかった。一方、項羽は、范増に「豎子、謀るに足らず。将軍の天下を奪わん者は、必ず沛公ならん」と言わしめた。

 よく人を用いるには、度量が必要である。


 編集後記
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  2月28日のヤフーニュースによると、米国ミシガン州の共和党予備選でトランプ前大統領の勝利が確実と報じています。これでトランプ氏は初戦から6連勝で大統領指名獲得に近づいていると言われています。

  米国大統領は、最終的にこの秋の民主党候補と共和党候補との対決できまることになりますが、トランプ氏がこのときに勝つと言う予測も少なくなく、世間では「もしトラ」と言う議論から「ガチトラ」との記事になりつつあるように思えます。
トランプ氏の政策は、「アメリカ第一主義という考え方は変わらない」とすれば国際情勢はもとより、日本への影響も少なくないと言われています。世界では「ガチトラ」を意識し始めたようですし、日本もいまから「ガチトラ」を意識しつつ諸策を講ずべき時期にあると思われますが。

今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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 第486号・予告
【 書 評 】 岡本弘昭『幕末史』(半藤一利著 新潮文庫)
【私の一言】 福山忠彦『アドラーの心理学に学ぶ

            :今を生き抜く「共同体感覚」』
               
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