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                  2024年2月1日 VOL.483

          評 論 の 宝 箱
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 第483号・目次
【 書 評 】 片山恒雄 『 元気に老い自然に死ぬ  

             山折哲雄・秦恒平対談集』(春秋社)
【私の一言】 小林基昭 『 我家の限界費用ゼロ革命から
              再生可能エネルギーを再考する 』



【書 評】
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◇        『元気に老い自然に死ぬ』
◇      (山折哲雄・秦恒平対談集 春秋社)
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                       片山 恒雄

近・現代に入ってから、老人に対する見方は、老・病・死として受け取られ、若い世代から嫌われ、敬遠され、不安がられ、汚ながられて来た。すると老人世代は反発してルサンチマン(恨執)を生み出した。江戸幕府には、大老・老中・若年寄と年齢はともかく年寄りイコール尊敬すべきという概念があり、横町のご隠居さんまでが、永年生きて来て知識を集積した人として敬意の対象であった。そこで今の衆議院・参議
院ついてまず衆議院を六十五歳定年とし、参議院を廃止する。
それに代わる老議院(名称は別途考慮の余地あり)を新設して、ご意見番の機能を持たせる。三人ないし四人に一人が六十五歳以上の現在、比例代表制から見ても穏当である。老害などと言わせない。宿老・翁の知恵である。

 老人に備わっている教養とは何か。教養が血肉化し、人格として滲み出てくるものでなければならない。それには孤独でなければならない。たとえ群れに囲まれていても、心の一点に弧心を抱いて動揺しない静寂さが必要である。

 自然系・人文系に限らずすべての学問の基礎に「人間とは何か」が問われなければならない。その次に出て来るのが、「日本人とは何か」、その次には「自己とは何か」が問われる。それらが問われなければ、学問は単なる「知的テクニック」になってしまう。IT革命(インテリジェンス・テクノロジー)と言っているが、「情報」の「情」は「人情」の情であることを忘れてはならない。近代文明の基礎を築いたのはいわゆるヒューマニズムであり、人間に対する理解が基本にあってその上に科学・労働の殿堂が組み立てられているのである。明治の西欧学の輸入にあたって、学術・技術の取込みを急ぎヒューマニティまたは人間理解がなかったように思う。

 近代人は最初に神を殺した。その結果哲学あるいは宗教の側から言葉の持つ力が失われた。老人たちに死の不安が芽生え孤独感・孤立感・疎外感が増えている。老人は定年後寿命までの三十年余りを生きければならない。たとえ体は衰えても。
 職退きて俄かに老けし後背が刑余を侘ぶるごとくに庭掃く         安江 茂
 

 日本の仏教を見ると、行基にしても弘法・最澄・空也・法然・親鸞・道元・日蓮・一遍にしても老いを迎えてから活躍し始めた訳ではない。人生の前半期に「覚醒」が芽生えて、それが年を追って煮詰められていく。そして高齢に及んで「変貌」「成熟」していくべきものである。ところが今の時代には、現代や未来に通ずるキャパシティを引き出す根源的な力がない。S・W・ホーキングという身体の不自由な宇宙物理学者がいた。彼は人類に残された寿命はあと千年ほどだと予言した。その根拠は分らないが、物理学者の生命感覚が導き出したものであろう。二百五十萬年に及ぶ人類史と比べて、終末期に近い絶滅危惧種である。これから老年期に生きる我々は、それに耐えうる思想を作り出さねばならない。今までの宗教の実態つまり教祖・教義・伝導活動という三位一体ともいうべき発信方法を根本的に見直す時期に来ているのではなかろうか。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

    『我家の限界費用ゼロ革命から

        再生可能エネルギーを再考する』
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                      小林 基昭

 

1・はじめに 
 現在、気候変動はさらに加速し、2023年夏は今までにない猛暑を経験しました。いまやグテーレス国連事務総長がいうような温暖化を超えて沸騰化の時代が来ていると言っても否定できない状況になっています。
再生可能エネルギー(以下「再生エネ」と言う)については、これまで定点観測的にフォローしてきました。今回は設置後10年を経過した太陽光発電の実績と原料コストゼロの再生エネの意味を「我が家の限界費用ゼロ革命」という視点から再考したいと思います

2・EUや中国などの政策に大きな影響を与えているコンサルタント・アドバイザーのジェレミー・リフキンが書いた「限界費用ゼロ社会」という本があります。限界費用とは、追加で生産する1単位増加に要する費用のことですが、昨今のIoT技術の進展により、生産コストが指数関数的に激減していくと価格も利益も丁度メインフレームがPCへ置き換わったように大幅に低下していくと言っています。
その一番の例が再生エネであり「原料費ゼロ」の発電が拡大していくと初期投資回収後は、限りなく電力コストはゼロに近づいていきます。再生エネは太陽光も風力も「原料コストゼロ」で現在の化石燃料・ウランを原料とする電力では絶対に実現不可能であり発電コストは究極的に再エネに勝てません。 

3・以上を頭に置きながら我が家の2012年来の実績とFIT 終了後1年の現状を「限界費用ゼロ革命」という視点で具体的に報告します。まず東日本大震災・原発事故1年後の2012年、計画時の前提は稼働率12.6%、想定発電量4,214kwh/年、設備容量3.99kwのパネル21枚を屋根に設置しました。投資額はグロス2百万(補助金有)NETで約1.6百万、小型自動車1台分くらいの投資でFIT価格42円/kwhで計算すると、約9年、自家消費分もいれると8年くらいで回収可能と考えました。

4・FIT期間中の実績
 2012/7~2021/6平均で発電量4,805kwh/年(計画比114%)稼働率13.7%(計画比1%UP)消費量比2.5倍の発電量を確保、投資額回収はほぼ計画通り約9年で完了。売電量は発電量の約9割の4180kwh、消費量は平均1919kwhとなりました。
 1)FIT終了前後の変化を見ます。大きな変化はFIT時「売電

 優先、残り自家消費」に対し、FIT後はコストゼロの「自

 家消費優先、残り売電」という正反対対応になっているこ

 とです。自家消費は62kwh/月から142kwh/月と2.3倍に

 増え、結果買電量は139kwh/月から50kwh/月へ64%減、

 売電は328kwh/月から 226kwh/月へ31%減となってい

 ます。自家消費率は34%→80%へ増加しました。

 2)FIT終了後(初期投資回収後)の蓄電池導入
 FIT終了後の最適の活用法として日中発電したコストゼロ

 の電気を最大限利用するため9年目に蓄電池を導入しまし

 た。投資額約1.5百万円補助金後880千円、 FIT終了後は売
 電単価が10.5円/kwhと1/4に下がりましたが、コストゼロ

 の自家消費分を勘案すると約11年で回収可能と判断しまし

 た。

 3)FIT終了後電気代限界費用ゼロへ
 自家消費は62kwh/月から142kwh/月と2.3倍に増加、一

 方買電量は139kwh/月から50kwh/月へ減少したため、支

 払い電気代は▲40%の2.5千円/月へ。
 売電収入の単価は1/4の10.5円/kwhへ減少したものの、売

 電量は▲31%に止まり収入は2.4千円、差し引き▲1百円と

 ほぼトントン、コストゼロの自家消費分142kwh/月の機会
 利益分4.3千円を勘案すると限界費用は受取超の4千円/に

 なりました。    

 4)我家の太陽光発電実績から実証できたこと
 ・初期投資回収後は、限界費用ゼロを実現
 ・蓄電池は調整電源対応として有効
 ・自給自足可能なプロシューマー(生産者兼消費者)化
 ・地球の物質代謝SY破壊への借りを返す一助

5・第3次産業革命と日本経済へのインパクト
 ジェレミー・リフキンが著書「第3次産業革命」で言っているようにいま第3次産業革命が進行中であることは、間違いないと思います。これまで2度の産業革命は3つの要素「新通信伝達手段」「新エネルギー」「新輸送手段」が融合した時に起こりました。いま「新通信手段」のインターネット「新エネルギー」の再生エネ、「新輸送手段」のEVや自動運転車などの3要素が融合し、第3次産業革命が進行中です。
化石燃料文明から自然エネルギー文明への大転換が起ころうとしています。パラダイム転換が進行中で化石燃料文明の大規模中央集中・垂直統合型の生産から再生エネ文明の小規模分散ネットワーク・水平展開型へ大きく転換していきます。
EUをはじめ米中も再生エネやIOTの投資が急拡大していますが、日本は2050年カーボンニュートラル宣言はしたもののそれを実現する長期計画がなく、2030年のエネルギー計画のみで目先対応に終始、GX計画では原発への揺り戻しが起きています。このまま行けばエネルギーコストの対外競争力に後れを取る虞があります。

6・再生エネの日本経済での重要性
 日本経済の二大弱点は間違いなくエネルギーと食料で人間生活のライフラインです。
2020年のエネルギー自給率は11%と先進国中最低ですが、いま自前のエネルギー資源が手に入る状況になりました。近代日本は、資源がなく石油を求大戦まで大戦まで惹き起こしました。自給率は石炭生産をしていた1960年は58%ありました。いま自前の再生エネで自給率を50%までUPすれば、莫大な日本経済へのインパクトになります。
しかしなぜかそういう議論はゼロです。昨年のエネルギー輸入は約30兆円です。自給率を50%まで引き上げれば輸入額の半分の10~15兆円が国内に還流、自動車輸出が昨年16兆ですからそれに匹敵するインパクトが日本経済に起こり経済再生への起爆剤になると思います。そして、世界は再生エネへの転換が必至の状況下、将来化石燃料資産は座礁資産となる可能性が高く、シティーGの試算ではその損失は100兆ドルに上るとも言われます。資源小国の日本は幸い将来の処分損失も少ない。逆転の発想をすれば自給率最低の日本はそのメリットを一番享受しうる絶好の位置にあると言えます。
しかし、長期計画もなく目先対応で終始すれば最大のメリットを活かすことは難しいと思われます。
そしてもう一つの弱点食料は自給率38%と先進国中最低レベルで今後の安全保障上国防以上に大きな懸念材料です。すでに大半が70歳以上超高齢化状態の日本農業は消滅の危機がそこまで来ています。最大の問題は、若者が魅力ある農業と見ていないことです。進行中の第3次産業革命を農業政策にも活かしIOT技術と農業を融合させ儲かる農業へ転換することが出来ないか。コメの生産性は1ha/1百万円の収入、太陽光発電は1ha/100万kw/10円/kwhで1000万円と10倍の差があります。ソーラーシェアリングで農地の30%(30a)利用できればソーラー収入3百万円、併用すれば収入は4倍になります。
企業経営的センスも要求され若者にも魅力的な農業に変貌する可能性があるのではないか。耕作放棄地は富山県の面積並みの42万haに上ります。耕作放棄地の活用と全農地440万haの5%~10%活用すれば、2050年に必要とされる5倍の太陽光発電は可能になります

7・最後に明るい話題ですが、太陽電池は最初日本企業が最先端を走り、上位独占していましたが今は見る影もありません。しかし今朗報があります。桐蔭横浜大学の宮坂力教授が発明した日本発のフィルム型新太陽電池「ペロブスカイト」の事業化が2025年にも始まろうとしています。原料のヨウ素は世界2位の生産国ということで完全国産化が可能な超有望商品です。積水化学が先頭を走って実証実験を開始しています。
唯一心配なのは半導体や太陽電池で失敗したように完全品を求めて事業化で同じ轍を踏まないかという点です。これにつき小宮山宏元東大総長は完全を突き詰めて造るのではなくサブスクリプションで普及を優先し修正は走りながらしていけばいいのではと提案されています。これはなかなかいいアイディアではないかと思います。ぜひこの宝の山は日本で独占してもらいたいと思います。日本のGDPシェアは21世紀に入り急速に低下し2022年ついに4.2%まで凋落しました。1950年、戦後5年後のシェア3%は下手をすると今年突入するかもしれません。名目GDPもIMF予想によれば今年ドイツ
に抜かれ第3位から第4位へ落ちるようです。日本再生への一歩はエネルギー転換なしには難しいのではないかと思いますが如何でしょうか?


 編集後記
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京都大学の元教授・矢野暢さんによると、日本の現代史は40年ごとに大変革を起こしてきた歴史があるそうです。最近では、昭和20年の敗戦、昭和60年の円高切っ掛けのプラザ合意がそれです。いずれも日本社会を大きく変えました。
 来年は昭和100年で、40年サイクル説では日本社会の大変革が起こる事となります。今年は世界的に選挙の年であり、その結果如何ではいろいろな影響が生じる可能性もあると言われております。最近我が国社会は経済的にも政治的にも沈滞気味であるだけに昭和100年つまり来年がいい大変革の年になる事を今から期待したいものです。

 今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)
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 第484号・予告
【 書 評 】 桜田 薫 『小室直樹の中国原論 』(徳間書店)        
【私の一言】 幸前成隆 『 与うる所を視る』
               
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