〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
                        2023年11月1日
                                 VOL.477


           評 論 の 宝 箱
        https://hisuisha.jimdo.com
              
                           見方が変われば生き方変わる。
            読者の、筆者の活性化を目指す、
         書評、映画・演芸評をお届けします。

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓 第477号・目次

【 書 評 】  桜田 薫 

                    『 日本経済の見えない真実 』(門間和夫著 日経BP)
【私の一言】  福山忠彦

                     『「和をもって貴しと為す」で世界に規範を示そう』



【書 評】
┌─────────────────────────┐
◇         『日本経済の見えない真実』
◇                (門間和夫著 日経BP)
└─────────────────────────┘
                       桜田 薫


 著者は元日銀理事のエコノミスト。日本経済の課題全般に亘って中長期的な視点で論じる。教科書のない条件が支配する日本経済には頼れる羅針盤が乏しく、政府や中央銀行の経済政策は、限られた知見に基づく試行錯誤の連続という。アベノミクスの大胆な金融緩和は壮大な実験だった。日本の低成長の原因は、多くの専門家が主張した金融緩和の不足ではなかった。金融緩和の効果で株高、円安、雇用増加はあったが、最大課題だったデフレ(物価下落)は解消されず、90年代前半から1%に低下していた潜在成長率は、0.5%に下がった。しかし著者は何もしないより、やった方がよかったという。日本は失われた30年といわれるが、米国も一時的なIT景気はあったが大局的には日本と変わらない。タイトルを「日本経済の見えない真実」にしたのは、メディアなどを通じて一般に理解されている経済常識には誤解や言い過ぎがあると指摘するためだ。これは特に政府債務が論点になる。以下に著書の一部を紹介したい。

*政府の国債発行残高が膨大になっているので、財政破綻を懸念する声がある。しかし国債が自国通貨建てで発行されている以上、日本でデフォルト(国債が償還できなくなること)は起きない。国が新たな国債を発行して中央銀行が買い入れるからだ。しかしインフレが高すぎる状態の時に日銀が国債買い入れを続け、政府が財政支出を続ければインフレの歯止めがかからなくなる。激しいインフレになればその後は厳しい財政緊縮や金融引き締めが必要になる。これは財政が持続可能でなかったということだ。「財政破綻」「財政危機」とはデフォルトでなく、その前の公共サービス削減など財政緊縮を行わざるを得ない状況のことである。政府債務残高の大きさには関係なく、インフレやバブルを起こさないためには金融政策でなく適正な財政政策が重要である(現在の物価は2%を超えているが、供給側の原因によるもので物価上昇は長く続かない。著者はむしろデフレ復活を懸念している。持続可能な財政のあり方について著者の提案は省略)。

*政府債務残高が大きいと何らかの理由で金利が上昇するか、それほど影響しないか、相反する理論がある。その原因と対応について説明を省略して結論をいえば、中央銀行は国債満期の長期化などで金利の上昇を抑えることができるので、この理論は重要でない。唯一、財政破綻に通じる可能性は異常なインフレ、すなわち景気悪化と物価上昇が併存する場合だ。その原因は、新興国で時々見られるような深刻な物
資不足がある場合で、戦乱など非経済的な要因が多い。供給不足が生じれば需要を抑えるために大幅な利上げを行う可能性がある。政府は債務残高の心配より、強い供給基盤を整備しておくことが重要だ。

*政府の債務残高を減らすべきとする主張がある。債務残高の対GDP比率が低下する条件は、国債金利を名目成長率より低いこと(ドーマーの条件)とされ、財政規律論者と財政拡張論者の間には国債金利と名目成長率のどちらが低いかという論争があるが、それはあまり意味がない。大局的にみると二つの間に大きな乖離が生じることは少ないこと、二つの間の大小は時期によって異なること、本当に財政破綻が起きる時にはインフレも金利も大幅の高まっている可能性が高いからだ。政府債務残高は約30年にわたり大きく上昇し続けているが、それが原因で問題が起きたことは一度もない。

*政府債務残高を将来いずれかの時点でゼロになるという予算制約式の理論がある。
「借りた金は返すべき」という個々の債務契約にある考え方だが、「借り換え」は可能で回数の制限もない。政府の債務はそのまま民間の資産になっているので、政府債務をゼロにしなければならないとすると、民間金融資産をゼロにしなければならないことになる。民間の経済主体には、自ら最適と考える金融資産を保有する権利がある。政府債務残高が大きすぎるというには、民間金融資産が大きすぎるといわねばならない。政府債務のGDP比率の議論はあるが、民間の資産残高のGDP比率を下げるべきとする議論が全くないのはおかしい。関連して著者が違和感を持つのは、国債が将来世代の負担になる」という考え方だ。それは結局のところ「借金は税金で返すべき」ということになるが、将来世代に向かって、「あなたの世代から金融資産を保有してはいけない」と宣言するような理不尽な表現だ。これに強いて理解しようとすれば、放漫な財政運用で政府の赤字を拡大させると、将来のある局面で厳しい緊縮財政を迫られ人々は困窮するという意味かもしれない。しかし、これは国債残高そのものが現在世代の罪であるという誤った印象を与える。

*財政の持続性との関連で「賢い支出」(Wise spending)という議論がある。
 中・長期的な経済成長に資するような支出は増やしてもよいが、それ以外は抑制すべきという考え方だ。著者はこの主張に無理があると主張する。詳細を省略するが高齢化社会の社会保障や科学技術の基礎研究など経済成長と関係なく必要な支出が多くあるからだ。「賢い支出」主張の背景には政府債務を抑制すべきという前提があるが、その手段として経済成長を位置づけるのはおかしい。また前項(将来世代の負担)の議論にも関係するが、公共投資は有効かつ公平な中身でなければならないのは当然としても、例えば使われない施設を作ったりした場合、国債発行で賄われたお金が無駄になったと批判がある。他に選択する対象があればベターな支出があったという批判はあってもよい。しかし無駄だった施設であってもそれを作った人の所得は増える。それが民間の金融資産の増加になり、その効果は永久に残る。
 この説明は次のコロナ対策で12兆円を国債発行で調達した場合も同じだ。この大半が貯蓄に回ったことの批判があるが、消費されたお金は小売店や飲食店の預金に移動し、使われなかった分も家計の預金として民間金融資産は12兆円増えた。将来世代はやがて増えたままの資産を受け取ることになる。ベターな給付はあるかもしれないが、苦しむ人への所得補填が目的だからここでは評価対象にしない。正当な批判が起こりえる可能性12兆円が消費を喚起し過ぎてインフレを引き起こすことだが(米国の巨額給付は供給不足を奪い合った)、日本ではそれは起きなかったし、貯蓄を増やして安心感を高めたといえる。公平性などで反省すべき点はあるとしても無駄というのは違うのではないか、と著者はいう。

以上は本書の一部で、要は「政府債務を着実に減らすべきという論理に縛られて将来世代のために必要な経済・社会課題の解決を遅らせてはならない」ということだ。本書全体は日本経済が直面する多くの経済課題を論じ、参考になる提案が行われている。
たとえば賃金はなぜ上がらないか、中小企業の政策支援の問題点などだ。経済理論は学者によってしばしば正反対だ。現実がその真偽を明らかにするだろう。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【私の一言】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

  『「和をもって貴しと為す」で世界に規範を示そう』

───────────────────────────                                                                                     福山 忠彦

 5年ほど前から私は「今の資本主義社会は曲がり角、新しい社会システムの構築が急務」と訴えています。その理由として「地球資源の乱開発、異常気象の誘発、地球温暖化」、「貧富の差の拡大、年々増加する貧困層」、「資本主義の要である銀行の社会的役割の低下」などがあります。これからは「リサイクル」と「シェアリング」を基盤とした循環共生主義(CIRCULISM)がやってくると訴え続けています。しかし、それでは済まない世界情勢です。私たちの安全と平和が脅かされています。人々が未来に希望の持てる安心した生活が出来る社会が求められています。政府も役立つことを
次々と行っていますが、国民の心からの賛同を得ていないようです。一本貫く何かが足りないからです。日本はこんな国だと言う国是ともいうべきものがないため、右顧左眄することになり海外からも軽く見られることになります。国是を知ればその国の性格を知ることが出来ます。国是の形成は、その国の建国の歴史と深くかかわっています。長期的に遂行されているものであれば、法律として明文化されなくてもかまいません。連綿と続く民族が守ってきた教えの事です。日本は民主主義陣営の中枢国です。アメリカとは同盟国であり、決して日本は従属国ではありません。世界の先進国がどの国も揺らいでいます。「日本の復活」と「世界の規範となる国」になることを私たち国民は願っています。今年、日本は長いあいだ低迷を続けた各種の経済指標が上向くと期待されています。この機会に日本・日本人は「和をもって貴しと為す」を国是とした古い由緒ある国であると世界に発信してはどうでしょうか。世界を「和をもって貴しと為す」に染めて、争いのない、平和で安心出来る社会を作りたいと思い
ます。


・1,400年前に聖徳太子が定めた17条の憲法 第1条が「以和為貴」
真っ先に書かれたのが「以和為貴」(和をもって貴しと為す)です。これが発布されたのは604年、推古天皇の時代です。「17条の憲法」が単体で残っているわけではなく、「日本書紀」の中にその記述があります。時の王子である聖徳太子が、家柄ではなく実力で評価する冠位12階を定め、その翌年の604年に役人の心構えを17条の憲法で規定しました。この条文の補足として「和という概念を大切にしましょう。これを外す事のないようにすることです。上の立場に立つものが調和を理想として下の立場の者も仲良くしてあれこれと議論をすれば、物事の道理はおのずから通じるようになり、ど
んなことでもうまく行くようになるものです。」とあります。
そのほか、10条 「不怒人違」(価値観の違いを認め、他人の意見を尊重しよう)、
第15条 「背私向公」(私情を挟まず公務に向かう姿勢が「和」の実現にはとても大切です)、
第17条 「不可独断」(みんなで知恵を出し合って合議の中で物事を決めましょう)
などを読むと和を大切にすることが、1,400年以上も前から日本人の生活に切り離せないものになっているのが分かります。

・連綿と受け継がれる「和の思想」
 明治天皇は五か条のご誓文を新政府発足早々に発せられました。それは「広く会議を興し万機公論に決すべし」 
「上下心を一にして盛んに経綸(国家を治めととのえる)を行うべし」 
「官武一途庶民にいたるまで各々その志を遂げ、人心をして倦まざらしめん事を要す」
「旧来の陋習を破り天地の公道に基づくべし」
「智識を世界に求め大いに皇基を振起すべし」と誓いを立てられました。

近年においては松下幸之助翁が日本の伝統精神として「衆知を集める」「主座を保つ」「和の精神」の三つを挙げ、特に和の精神には調和を求め、節度を求め、自己を抑制する事を
知り、他人に配慮することであると述べています。健全な「自立」の精神も和の精神が根底にあるからこそ機能すると断じています。

・「和の精神」(調和、節度、抑制)の伝道者として世界に貢献しよう
和をもって貴しと為すと「貴し」という字を使って和を最高の規範として取り扱っています。私たちが自然と先人から引き継がれた目に見えない価値観でもあります。あらゆる面で調和、節度、抑制という和の精神を身に着けています。人間関係だけでなく自然の関係においても同様です。日本人の持つ和の精神は民族の長い歴史に培われたものです。科学技術や工業力も大切でありますが、この「和の精神(調和、節度、抑制)」は今の時代、特に大切にしなければいけません。幸い日本は世界各国から好印象を持たれ訪日観光客も年間3,000万人を越えています。日本文化も好意的に受け入れられています。その根底にある「和の精神(調和、節度、抑制)」を「世界の規範となる国・日本」と分かるように訴え続けては如何でしょうか。人類の永遠の発展と地球を守る先頭ランナーして行動することを願っています。 


編集後記
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
 最近の国際情勢は、第2次世界大戦後に作られた世界の諸システムを大きく変貌させようとしているように思われます。
 そのような国際情勢の下で、我が国は人口減少、少子高齢化、低成長、貧困化といった未曽有の困難期にあります。この内外の困難期を乗り切るには、明治維新や、戦後の日本のように大胆に既往のシステムを打破し、新しいシステムを構築する必要があると考えられます。
これには大きな犠牲を必要とするものであり、政治の明確な哲学と強力なリーダーシップが必要です。

 衆議院の解散選挙が話題になっていますが、我が国は内外ともかつてない困難期にあることを頭に入れ、これに対応することが不可欠です。

 今号もご愛読・寄稿などご支援ご協力有難うございました。(H.O)

∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
 第478号・予告
【 書 評 】  吉田龍一

          『 なぜヒトだけが老いるのか 』(小林武彦著 講談社現代新書)
【私の一言】  幸前成隆 『利の大難を知らず 』
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
★☆★☆★
        ■ ご寄稿に興味のある方は発行人まで是非ご連絡ください。
    ■ 配信元:『評論の宝箱』発行人 岡本弘昭
          ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
         Mail;hisui@d1.dion.ne.jp